第三部【Grand Ending】

第41話

 あの時、俺は不思議な声を聴いた。それは二度と聞きたくないと思える声で、俺を別世界へと連れて来られた。訳が分からなかった。そんな俺を助けてくれたのは、シグベル・マーハイトという人だった。

 

 彼女は、偶然薬草の採取に来ていた時に、ボロボロになった俺を見つけて、保護してくれた。当時を思い出せば、酷く怯えてマーハイトを困らせていたと思う。


「騒がしいな」

「あぁ、お客さんもそう思います?」

 

 いつも泊っている宿がやけに騒がしい。酒場と一緒になっているここで、一人静かに飲んでいれば、静かに飲めやしない。男女の痴話喧嘩なのか、何かがぶつかるような音も聞こえてくる。


「仕方無い。マスター、今日は別の宿を探すよ。酒の代金はここに置いておく」

「あいよ。お前さんも気を付けてな。最近、物騒だからね」


 言葉を背にして、俺は酒場のドアを開き出て行く。


「……」


 この世界の星空を眺めて、今を考えていた。離れ離れになった灯を探す旅も既に三年は経った。この世界の至る所を探し続けても、尚彼女は見つけられない。勿論、薄々感づいては居る。この世界は、俺が居た世界じゃない事ぐらい。


「ハイ、何用デショウカ?」

「次の世界に飛ばしてくれ」


 だから、俺はあの時の声を頼りにする他、無かった。何度となく、語りかけてきたその声を俺は、頼った。今では何度世界渡りを行ったかも覚えてない。この世界では三年の月日だったが、次の世界は何年になる事だろうか。


 だが、それでも良い。灯を救いさえ、出来るなら何度だって構わない。


「宜シイノデスカ?」

「あぁ、どうせこの世界も沈むんだろ?」

「イエ、ソウデハナクテ――ソレニ、コノ世界ハ沈ムコトハナイデショウ」

「どういう事だ?」


 このピィという奴は、物語の未来というのを教えてくれた。世界には、それぞれの物語とその未来のカタチがあるという。そのカタチとなるべき点は全て、ジートリーという名前が付きまとっているそうだ。

 俺が飛ばされた世界もそうだ。ジートリー・シュリという存在が死んでからというもの、時が全て止まった。俺だけが動けて、マーハイトも、宿屋の店主も誰一人動かなくなった。

 

 本来なら、俺も動けなくなるらしいんだが、別世界の人物である事でそれを回避した。つまり、俺の世界の誰かの物語に終止符が打たれた時、俺も動けなくなる。


 そして、その現象は沈みというらしい。物語が止まり、それ以降の物語が描かれなくなった成れの果て。ピィは、その成れの果てを止めると共に、ある少女を探しているとの事だった。

 

「次ノ世界ガ見ツカラナイノデス」

「世界が見つからない?」

「ソウデス」


 世界が見つからない。その言葉に俺は違和感を覚えた。何故ならば、俺が居た世界は未だに見つかってないのだから、俺の世界が無くなった事になってしまう。灯が居なくなったのか、それともこの世界に既に灯が居るのか。

 理由は分からない。分からないが、少なくともピィが言う事が事実なのであれば、既に俺が居た世界は無くなっている事は確かだ。


「世界ガ無イママ、沈ミガ発生ガスルト崩壊ガ起キテシマイマス」

「崩壊してしまえば、この世界で生きている人々全員が死に絶える……と?」

「死ニ絶エル訳デハアリマセンガ、ソレニ近イモノデス」

「じゃあ、どうしろと?この世界に、まだ何かあるって事なのか?」


 ワカリマセン。ピィはそう答え、俺は大きく溜息を付いた。手掛かりの一つすら、未だ見つかってないこの現状でどうすればいいのかと、大きい不安だけが残る。

 だが、俺は一つだけ唯一気がかりな事があった。それは果たして、手掛かりにすらなるのかも分からないし、もっと言えば危険性もあった。


「考え込んでも仕方ないよな」

「何処ヘ行カレルノデスカ?」

「決まってんだろ。ピィ、俺を時空に飛ばしてくれ」

「……ソレハ出来マセン」

「何故だ?お前が居るその時空は、様々な世界以外にも繋がっていると言ってたじゃないか」

「世界が無いのなら、もういっその事、何処かに繋がるしかない」


 それは一種の賭けみたいなもので、ろくでもない考えなのは俺も理解していた。


「僕ガ居ル時空ハ未来ノ歪ミニヨッテ起キタ場所デス」

「イクラ、貴方ガ時空慣レシテイルトシテモ、肉体ハトモカク精神ハ持タナイ事デショウ」

「じゃあ、どうしろってんだ!そこまで言うのなら、お前に打開する手立てはあんのかよ!」

「アリマス」


 ピィは淡々とそう答えた。

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