第42話
「貴方ガ世界ヲ構築スレバ良イノデス」
一瞬、思考が停止してしまった。訳が分からないとかではなく、出来るのか?という具合だ。正直な話、今までピィが言っている事に嘘偽りは無かった事から、出来る事なんだろう。
「ちなみに、世界を構築する……もし、次の世界を作ったら、この世界はどうなるんだ?」
「構築シタ場合、コノ世界ニカタチノ存在ガ無イ場合ハ沈ムト思レマス」
「んな……!だったらする訳には行かないだろうが!」
「合理的ト思ワレル判断ヲシタダケデス」
するかしないのかは、貴方に委ねます。そうピィに言われて、俺は当然首を横に振った。当たり前な事だ。自分の目的の為に、見ず知らずの世界全体を揺るがす行為など出来る訳が無い。
黙り込んだ俺にピィは続けて話をする。
「貴方ガ今マデ通ッテキタ世界ハ既ニ沈ンデイルノニ、何故躊躇ウノデスカ?」
「既ニ貴方ハ世界ヲ食イツブシテイル。ソレナノニ、何故?」
「犠牲ノ一ツスラ払エナイ貴方ハ臆病者ト推測シマス」
言い返せない自分。対して、相手は合理的に話を進めてくる。あぁ、そうだ。臆病者かもしれない。そう吹っ切れるなら、どれ程良かった事か。
だが、俺には無理だった。少なくとも、今まで俺がしてきた事は仕方無いからと、他の世界は終わりがある。だから、仕方無い。
――そうやって、納得させてきただけに過ぎない。目を逸らしていただけなんだ。している事も、突破口である世界を造るのもしている事は全く同じである事に変わりないのに。
「俺はただの人であって、何かが出来る訳じゃあない」
「ナラ、犠牲ガ起キル事自体、貴方ノ責任デハナイノデハ無イデスカ?」
「それとこれとじゃあ、違う」
「理解出来マセン」
だろうな。と、そういって俺は止めていた足を動かした。描くのは、最初に不慣れで書いたあの世界と終わりを告げた一つの魔法陣。
「何処ヘ行カレルノデス?」
「マーハイトが居た世界に戻る」
「……アノ世界ハ既に――」
「あぁ、そうだな。終わったんだろう。終わった原因も分からず、俺は様々な世界を渡り歩いては、物語の結末を見てきた」
「それは残酷で、中には優しい結末だってあった。だが、そんなのは一握りで、挙句結末を迎えた後は誰一人動かない世界」
俺が世界を渡り歩けば歩く程、深海のように沈んでいく。挙句、原因も分からない。その上、世界を造るとか。
神様染みた事を提案され、俺の頭ん中は既にパンク状態だ。
「だからこそ、一度、戻ってみる。もしかしたら、何か手掛かりの一つでもあるかもしれないだろ?」
「拒否シマス」
ピィは冷徹にそう答えた。いつもそうだ。ピィは頭ごなしに、考えを提示してはそれを当然として、その答えが最適解として考えている。
「……どうして?」
「過去ハ過去デス。イクラ、探シタトシテモ貴方ノ求メル物ハ何一ツ無イト思ワレマス」
「なぜ、そう言い切れる?」
「何故トハ?」
「だから、過去として変わったのが何故今変わらないと思ってるんだと聞いてるんだ」
「理解出来マセン」
されてもされなくても、俺はやるよ。少なくとも、俺があの世界に来た意味を知るまでは、何度でも足掻いて見せるさ。灯を救う事も、シュリが何故死ななくちゃいけなかったのかも。何一つ、物語の道筋が見えてないんだから。
「貴方ハ愚カ者ダト思ワレマス」
「機械に何言われたって、俺の意志は変わんねぇよ。――よし、出来た」
最初の時とは比べ物にならない程、手慣れた感覚で書き綴った円に、俺は入る。これが吉と出るか、凶と出るかなんて知らない。俺は俺の感覚を信じて、行く。
魔力を込めた途端、淡い光で輝き始めた。肉体は徐々に、光に包まれていく。
俺は物語を作っている奴を見つけない限り、意味が無いと思っている。言わば、神だ。
そんな神が物語を作り出しては、それを沈ませている。何故、そんな事をするのかは、分からない。だが、そいつが居る限り、永遠に物語を渡り歩くだけになってしまう。
「悪いんだが、それは嫌なんだ。ピィ」
そう呟いた瞬間、俺の意識は消えていた。
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