第38話


「あのなぁ……だからって、何で砂漠なんだよ」


 必死に、砂を掘ってはどかしてを繰り返す最中、ミグリダは横目で、あたしを見つめる。

 

「おい、返事くらいしろっつの」

「返事をした所で、また分からないとか言われても困る」

「はぁ……そうかよ」


 ミグリダは呆れながら、あたしの横に並んで一緒に砂を掻き分け始めた。


「貴方が手伝うなんて、どんな気変わりかしら?」

「俺はお前の事は分かんねぇし、正直、巻き込まれ損だと今更思いつつある。けど、お前が言ってる神様に会う為に必要なんだろ?」

「よく分かってるじゃない。そうやって、黙って付き合えばいいのよ」


 あのなぁ……と声が聞こえてくると同時に、掘り進んだ砂の奥にある取っ手を引っ張り出す。


「それか?目的の物は」

「そうよ。でも、ちょっと離れて」


 あたしは取っ手を勢いよく引っ張る。けたたましい音が鳴り響き、揺れ動いて砂の中から全貌は露わになっていく。形は違えど、あの時、灯の未来と全く一緒の塗装された分厚い鉄の蓋。それが、砂から這いずるように現れる。

 

「なんだこれ……」

「さ、入りましょ。ここに私のピィが居る筈」


 二人で重い蓋を持ち上げ、開く。中を見れば、あの時と変わらない、鉄梯子が姿を現す。


「ここを降りるってのか?」

「そうよ。さ、早く行って」


 急かすあたしを他所に、ミグリダは慎重に梯子に手を掛けて、ゆっくりと降り始めていった。丁度、一人分の空きが出来、そこからあたしも降り始めた。


「しかし、何でまたこんな場所を作ったんだ」

「元々、あたしには、未来の世界を監視する役目を与えられたって話はしたわよね」

「あぁ」

「その管理場所がここ。元々ピィの身体はここにあったって訳」

「んじゃあ……お前がその背中に背負っているそれはピィじゃねぇのか?」

「言ったでしょ。ピィはあたしと繋がっている。ここのピィもあたしの持っているピィもどっちも同じよ」

「さて、着いたわね」

 

 何時間、下へと降りていただろうか。延々と続く鉄梯子に嫌気が差してきた頃、やっと見えた地面へと足を付けた。

 そして、目の前には無機質な通路があたし達を出迎えてくれた。あの時と全く変わらない。戻ってきたんだと思えば、少しばかり気分が悪い。

 ここで、あの神様の指示を聞いては動いてたと思うと破壊衝動にすら目覚めそうだった。勿論、それを今しても意味は無いのだが。


「この先に、管理室がある。あたしはそこで一度灯を殺した」

「また、死体漁りかよ」


 ミグリダは睨んでくる。彼にとって、死人への冒涜は許せないのだろうけど、今回は違う。


「違うわよ。ここにある管理室へとピィを再起動させるのよ」


 それに、灯の死体は無いだろうとあたしは思っている。仮にあったとしても、全く意味を成さない。それはあの時の未来で確定した一つのカタチにしか過ぎない。

 決まってしまった未来はもう二度と動きはしないのだから。


「あたしの持っているピィと灯の持っているピィを繋げるのよ。そこからコンタクトを取れないか図ってみるの」

「要は、繋がった者同士で連絡取り合えないか確認するって事か?危険過ぎやしないかそれ」

「なら、貴方が良い方法でも考えてくれる?」


 ニットはそう言い残し、ミグリダはそのまま黙ってついていく。

 その場でスッと足を止めるニット


「……可笑しいわね」

「どうした?」


 あたしが指さす先には、一つの開いた扉があった。それはあの時と同じ扉。だが、あの時と違う事が一つだけあった。


「あの時の未来はこの扉は閉まっていた筈なのよ」

「先客が居るとでも?」

「可能性はある。あたしが先導するから、貴方は自分の事だけを考えなさい」


 万一にもこの場所があの神様によって手が加えられているというのも否定は出来ない。何故ならば、ここにきている時点で、それが物語の一節だと言ってしまえば、書き上がってしまうからだ。

 あたしながら、何て厄介な敵を作ったのかと、今更後悔の二文字が頭の中で回る。

 だが、怖気づいてしまっても意味が無い。


 あたしは扉へと手を掛け、一気に開いた。


「……え」


 そこに居たのは、二人の少女。見覚えのある可憐な少女達だった。


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