第37話


 本当なら、あの宿屋の店主に、シュリの行方を知らないかと問いたかったけれど、今戻ればきっと、厄介事になってしまうだろうから、それも出来ない。

 かといって、灯を探す手立ても無い。

 自分で言っておいて何だけれども、この状況から合理的かつ方向性を定める事は難しかった。


「お前が分からないんじゃあ、俺が知る訳が無いだろ!――って言いたい所だが、方法はある」

「……へぇ、貴方らしくないじゃない。いつもなら、呆れて溜息の一つでも吐いてるのに」

「あんたがポンコツだから、俺なりに頭を働かすしか無いんだよ」


 癪に障るような事を言われたが、自覚症状ぐらいはある。

 あたしは合理的な考えや話を出来ても、柔軟な発想は出来ない。

 一つの考えに固執して、頭の中では、YESとなった考えを否定して、新たな考えを提示出来ないからだ。


「まず、灯の情報を聞く限りだ。ロボットにピィと名付けた結果、あんたと繋がったと言ってたよな?」

「そうよ」

「なら、その逆。あんたがその灯に繋がるようにすりゃ良いんじゃねぇのか?」


 ……意味が分からない。


「んな、理解出来ませんって顔すんなよな」


 だって、出来ないのだから仕方無いだろう。


「あんたはAIなんだろ?だったら、灯が今何処で何をしているか。それを、彼女の未来を予測してそこから出た可能性を追っかければ良いだろうが」

「それは――出来ない」


 既に、あたしはジートリーの名を受け継いだただのAIだ。

 もうあの神様から貰ったろくでもない能力はあたしには無い。

 

「誰も、神様の能力なんて使えなんて言ってないだろ」

「お前は合理的だ。だったら、今まで見てきた記憶の数々から、ジートリーがする事、あの神様がやりそうな事ぐらい想像出来ねぇのか」

「確かに、あたしの中には、あの子達の全てがある。でも――」

「でも、とか、だって。とか、言うな。お前が言っただろうがよ。目的を達成する為だったら、何でもやるんだろ?」


 だったら、頑張れよ。

 強く背中を叩かれ、ミグリダは笑っていた。


 彼は彼なりに、あたしを心配してくれていたのだ。


「目的を見失うな。微かな道筋があれば、その道は渡れんだからよ」

「……ありがとう」

「はん、AIにお礼を言われたって、嬉しかねぇよ。お礼を言うなら、お前がポンコツじゃなくなってからにしてくれ」


 あたしは、その言葉を追いかけるようにして、彼を歩く道を追いかけた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 当ての無い旅。まるで、それは誰もが見た事の無い物語の様式美みたいなものだった。 

 あたしは、きっとそんな旅を望んでいたのかもしれない。

 けれど、灯を探す。この膨大に広がる土地や空を見上げては、思う。


 無理なんじゃないかと。


 呆然とするような不安はあたしを追いかけては、食らおうと必死になる。

 でも、諦める訳には行かない。諦めてれば、それこそあの神様の思う壺だ。


「なぁ、一つ良いか?」

「何?ミグリダ」

「何で、砂漠を歩いてるんだ俺達は」


 その返答は答えたくなかった。


「もう一つ良いか?本当に、ここに灯が来るんだな?俺は、砂漠で遭難したとしか思えないんだが?」


 額から垂れていく汗と共に、その言葉を流したかった。


「……なぁ?」


 ミグリダの目線が冷たい。

 分かっている。あたしだって、今の状況が問題だと言う事ぐらい。


「だんまりかよ。クソが」


 地面を蹴っては、無数に舞う砂がただ靴を汚していく。


「……ミグリダ。あたしの話を聞いてくれる?」

「あぁ?聞くも何も遭難したんだろ?況してや、こんな砂漠に何の用があるってんだよ」

「どうして、あたしがここに灯が来る。居るって考えたと思う?」

「はぁ?どうしても糞も――」


 あたしは足を止めた。そして、何もない地面へと手を伸ばして、あるであろう取っ手を探した。


「おい、突然止まるなよ。なんだってんだ」

「あたしは、元々神様の言いなりだった。けれど、メルラドが死んでまで紡がなかった物語を灯は紡いだ」

「だから、何なんだよ」


 呆れ顔をしているミグリダを他所に、あたしは砂をかき分けていく。


「そして、あたしは否が応でも灯を殺して、ジートリーの名を紡がせないようにしようとした。その時の場所ってね、元々あたしが管理していた空間を転送させたの」

「だから!それと灯が何の関係があるんだよ!」

「言ったでしょ。その空間は残ってる反応が出てる。それに――」


 彼女のピィとあたしのピィを繋げる事が出来るかもしれない。もっと言うなら、あの時の未来で死んだ灯の死体が残ってる筈。

 

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