第35話
あたしは元々、何者でも無かった。というより、そもそも概念すら持たず、何にでもなれる存在だった。
人にも、動物にも、それこそ、微生物でも神様にすら成れた。
所謂、万物と言う存在だ。そんなあたしに、ある神様が問いを掛けてきたんだ。
それが、
あたしはAIという依り代を与えられ、ジートリーの監視をするよう、命じられた。
これが、あたしというAI生誕の物語だ。
「ここまでは良いかい?ミグリダ」
座った椅子の背中に、身体を乗せ、木の擦れる音が鳴る。
朝早く、陽気な日の光に当たりながら、眩しそうに手を伸ばして、考えるその男は、ただ頷くだけだった。
「最初は監視。そう、監視だけで、あたしは彼女達の未来を見てきた」
「どの物語も、色濃く綺麗な終わりを迎えてくれた」
そう、ジートリーの名を受け継いだ者達の終わりは、どれもハッピーエンドだった。
決して、薄汚れた内容ではなく、どの世界の人物も大団円へと向かう。
「――ただ、それはもうかれこれ三百年以上の昔の話なのよ」
ある日、その神様は彼女達を殺す物語を造れ。
そう言われたんだ。あの神様は、そう命じてきたのだ。
当然、あたしは理由を聞いた。
いきなり、そんな命を受けた所で、納得など行かないだろう。
況してや、私は万物なのであって、機械仕掛けの神様なんてのは一握りの砂程度の存在でしか無い筈。なのに、あたしは負けてしまった。
「あたしはただの依り代されていたんだ。結局、言いなりになるしかなかった」
錆びた神様は、何度も何度も世界を壊しては、また新たなジートリーの名が紡がれる。
最悪な物語のカタチは延々と続くかと、あたしは心底苦しんだわ。
「……んでも、今は違うんだろ?」
「えぇ、勿論」
淡白な返事をし、あたしは話を続ける。
破滅の時を繰り返すと、世界はまるでジートリーを壊す為だけに、世界を蝕んでいった。
ジートリーは忌子として生まれるようになり、シュリやエイヴ達は異端児と、呼ばれる存在へとなっていった。
そして、世界への恨みを募らせなかったのが、今回の事件の発端だった。
「ある時、あるジートリーがイレギュラーな事をしでかしたの」
「それが昨日、叫んだ。ジートリーの名を受け継がせなかった者って事か?」
その通り。そして、その名はジートリー・メルラド
「彼女は、あたしの存在に気付いた。
何故、気付いたかは分からなかった。監視にバレるような事はしてなかったし、況してや彼女の世界とあたしの世界は見ている次元すら違ったのに。
でも、メルラドはこう言ったの。
『未来を無くすには、その未来を紡いではいけないんだと、私は思うの』
ってね。
「おい、それってつまり……」
「ふふっ、ちょっと前までは頭が固かったのに、察せるようになってきたわね?」
「嫌な事は、簡単に思いついちまう。それが人間ってもんだ」
そう、彼女は自らの未来を消し去る為
『自殺』した。
物語は、展開が展開を呼び、そして、結果が残る。
でも、彼女は自ら自害を選ぶ事で、それ以降ジートリーの名は生まれてこなかった。
当然だ。未来は、誰かの意思が紡がれ、物語は造られる。
紡がないただ唯一の方法は――そう、その人本人が自らが死ぬ事。
神の手に委ねない唯一の死に方 それが『自殺』なのだから
「じゃあ、そのメルラドが死んだのに、何でまたジートリーの名が?」
「――言ったでしょ。解れってのは、一つ何か繋がるだけで未来は創造されてしまう」
「流石に分からないから、ちゃんと説明してくれ」
ここまで丁寧に言ってるのに、分からないなんて――やっぱり、この男は堅いわね。
とはいえ、あたしもまだ説明してないものがあるから仕方ないけれど
「灯という人物が居たのよ。彼女の世界はジートリーの名を受け継がれてなかった。ただ一つのストーリーだった」
「それが問題だったって事か?」
「いいえ、そうではないわ。さっきも言ったでしょ?ジートリーの名は受け継がれなかった。って、にも関わらず彼女の物語にはジートリーが登場してしまった」
はぁ?と、ミグリダは漏らす。――当然よね。
関係ない人物から、物語が狂わされた なんて言われても理解出来る訳が無い。
「彼女はたった一つだけ、あたしの繋がる要因を作ってしまった。そう、たったの一つの羽ばたきが世界を神様も誰もかれもを狂わせたのよ」
「だーかーら!それがなんだって――」
「ピィと、ロボットに名付けたの」
ここからは、あたしの想像の範疇と実際に起きた事の照らし合わせでしかない。
彼女の世界は、元々ただの世界にしか過ぎなかった。でも、ある時あたしの中でエラーを吐いてしまった。
原因を調べていくうち、最悪な出来事が起きてしまったのを確認した。
あたしの持っているピィと灯は同一の名前のピィと付けた事で、こうしてあたしと繋がってしまったのだ。
そこに、あの神様は通と灯の物語に目を付けた。
この世界をジートリーの依り代へと出来るのではないか。と
結果、通はいなくなり、そして、エイヴはあの世界に召喚された。何にも知らないのに、
エイヴは、ただあの世界を壊すために送られた刺客であり、そしてそれはあの神様は望んだ。
以前、あたしが灯を殺そうと必死だったのは彼女を殺す他、あの世界を止める事が出来なかったのだ。
灯さえ殺す事が可能な物語を造れれば、二度も同じジートリーの悲劇が起こらないだろうとあたしは考えたからだ。
だが、殺しても錆びた神様は彼女を生き返らせてしまう。
後は単純明快、物語は辻褄が合わなくなれば勝手に修正されていく。
「おいおい……理解が追い付かねぇ。つまりこういう事か?」
「元々、変哲の無い物語である灯の物語は、灯がその――お前が持っているロボットに、ピィと名付けたせいで、全てが狂ったって事か?」
「そうよ」
「んで、神様はその変革を繋ぎ止める為だけに、過去の壊した世界を再構築して、シュリを殺した」
「そう、でなくては未来の事象はその物語で完結されてしまうから」
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