第34話


 気が遠退いて行く。

 行きついた結論はただ蹂躙じゅうりんされるだけで、あたしの力では何も出来ない事を物語って居た。


 ただ、あの神様にキツイ仕置きがしたかっただけなのに。

 どうしてこうも、上手く行かないんだろうか。   


 彼女達ジートリーにとっての未来を守りたかっただけなのに。


 何の欲も、希望も無い未来が一番正しいなんて、間違ってる筈なのに。

 だが、事実は変わらない。

 この世界は、相も変わらず描かれていく。

 そして、行く先は最悪な物語の結末を迎える。


「……ット!……い!おきろ!!」


 あぁ……薄ら寒い意識の中、ミグリダが呼んでくれてる。

 きっと、起こしてくれてるんでしょうね。

 でも――あたしは呼ばれた所で、返事なんてしたくない。

               

 彼女達には彼女達自身が望んだ別の未来がある筈だった。 

 救うべき彼女達――ジートリーの名を受け継いだ者達の未来。

 それは何者にも縛られず、そして彼女達が歩みたいと願った未来のカタチ。


 あたしが創ろうとしたサクセスルートも、錆びた神様が捻じ曲げようとしていたミスルートも。

 何一つ関係しない、ただ唯一無二の変わらない最高のエンディング。


 あたしは、その為に自分のニットの名にジートリーを刻んだ。



 ピィ、ごめんなさい。



 あたし――もう何も見えない。何もしたくない。


 エイヴ、貴方の未来を切り崩してしまって、ごめんなさい。

 貴方の中にある幼い心の中。それに、宿った肉体を台無しにしてしまった。


 シュリ、残酷な死に方を選んでしまって、ごめんなさい。


 貴方はまだ、幼すぎた。

 何を理解するにしても、その紅く染まったまなこを黒く塗りつぶしてしまった。


 シトリア、二者択一の内、最も悲惨で愚かな選択を用意してしまった。


 老婆になろうとも、貴方の願いは聞き届けられなかった。

 貴方の子供も、夫も何もかも奪い去ったあたしは死すべき存在だと思う。

    

 そして、 最後のジートリーの名を受け継いだ貴方は――――


 彼女に、ジートリーの名を受け継がせなかったその気持ち。

 今になって理解したわ。


 こんな呪われた名前、受け継ぐべきではなかった。



 ――受け継がせなかった……?



「いい加減にしろよ、このポンコツA――」

「そうよ!一人だけ居るわ!彼女はあの神様のイレギュラーになっている!」


 あたしは、いつの間にか倒れていた身体を勢いよく起こした。

 その瞬間、目の前にいたミグリダの額へとぶつけ、互いに声にならない痛みに襲われた。


「っ~~!いきなり、飛び起きるなよ!――まぁ、起きたのは良かったけどさ」

「ぶつかったのは悪かったわ。でも、貴方も女の子の身体をベタベタ触るもんじゃないわよ?」


「突然、座ってた椅子から転げ落ちるように落ちたら、誰だって心配するだろうがよ!」


 ――まぁ、でも良かった。

 頭を掻きながら、ミグリダは目を逸らす。

 彼なりの心配を他所に、あたしは地面へと倒していた身体を起き上がらせた。


「おい、それより叫んでた事の意味はどういう事なんだよ」

「……そうね、貴方にも全てを話す必要はあるわよね」


「でも、それを話すのは、明日ね。食事も中途半端とはいえ、もう遅いわ」


 ミグリダに、壁掛かった時計を見るよう促した。

 時刻は十二時の針を超え、窓の景色は真っ暗な夜空で埋め尽くされている。


「ちっ、わーったよ。だが、明日起きたら、ちゃんと教えろよ」

「勿論よ。――でなくちゃ、この世界の未来は救えない」


 全てが繋がった今のこの世界において、たった一つのイレギュラー。

 彼女にしか、この世界は救えない。


 ……メルラド、貴方に感謝するわ。貴方の命を投げ捨ててでも、彼女にジートリーの名を受け継がせなかったその想い。

 二度と、ジートリーの悲劇は繰り返させない。

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