第29話
「なんだそりゃ……」
呆れた顔で、あたしを見つめてくるミグリダ。
あたしは、ただのAI。そんなAIがあの神様を壊すには、自分自身の枷を取り付けてアイツのテリトリーで戦う他無い。
例え、どんな人間があたしに歯向かおう共、命じられた指示をただこなすだけの事。
「何か問題がある?ミグリダ」
「問題つーか、あー……もう良いよ。分かった」
呆れたのか、首を横に振って、ミグリダが呟いた。
一体、何だって言うのだろうか。
「んで、どうするんだ。あの町は危険だから行かないってなら俺にも当てがねぇぞ」
「そうね。本来なら、あそこは避けたいわ」
なら――とミグリダが話を繋げようとした所、あたしは遮るように意見を口に出した。
「ただ、シュリを仲間に出来るかもしれないから、あそこに向かうわ」
「正気か?お前の話の通りなら、シュリって奴は悪魔になってんだろ?」
その通りだ。だが、あたしだって何も考え足らずでそう判断した訳ではない。
「あの子は、もう未来が確定した形なの。つまり、機械仕掛けの神様が手を出して終わった事後の未来」
「何が言いたいんだ?」
「はぁ……。人にAIは聡明じゃないの?とか言っておきながら、貴方の頭がそんな程度のオツムじゃあ理解出来なくて当然ね」
皮肉交じりで返事を返すと、ミグリダは苦笑した。
「何笑ってるのよ」
「いや、良いんだ。んで、話の続きをしてくれ」
「事後の未来には、興味が無いのよ。決まってるから」
「つまり?」
「彼女の意思次第では、機械仕掛けの神様と戦うとなっても操られる心配がない」
成程。と言った顔つきで、ミグリダは納得したようだ。
――というか、これぐらいは推察が出来そうだが、本当にこの男は考えてるのかと、不安に感じてしまう。
脳みそ筋肉とは、正にこの事なのだろう。
「……おい、ニット。お前凄い失礼な事考えてないか?」
「あら?顔に出てたかしら?」
「お前って奴は、本当にAIなのかよ」
「ふふっ、それは誉め言葉として受け取っておくわね」
皮肉と皮肉の応戦、ミグリダもその言動が嫌ではないのか。
薄ら笑いを浮かべては、シグナルウォートへと歩き始めた。
そして、あたしもその背中を見て、歩いていく。きっと、これが仲間なのだろう。
暫しの間の楽しさ。それを、あたしの気持ちの中に、インプットしていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、着いたは良いが、シュリをどうやって探す?」
「それに関しては当てがあるわ。まずは、彼女の未来の道筋を辿ってみましょう」
あたしが、造ろうとして未来は「化け物になりたくない夢魔」だった。
まずは、彼女が住んでいた家に向かえば分かる事だ。きっと、そこに――
「おい、なんだよこれ……」
だが、着いた先を見て、ミグリダが絶句する。
無理も無い。
崩壊した家屋だったのだから、明らかに人が居るとは思えない。
苔むした外壁に、倒壊してるのではと錯覚するほど曲がってしまった家。
下手に触れれば、それこそ一気に崩落してしまいそうに見えてしまう。
「おい、ここがシュリの自宅とは――」
「自宅よ。間違いなく、ここがあの子の自宅に間違いない」
「明らかに人が住んでるとは思えないんだが」
ミグリダが溜息をつくが、あたしはそんなのはお構いなしに入り口のドアに手をかけた。
「お、おい!下手すりゃあ不法侵入になっちまうんじゃねぇのか」
「無いわよ。何より、ここには……」
建て付けの悪いドアに手をかけ、ゆっくりドアノブを捻って手前に倒す。
開けられた中には、普通の人なら吐くような光景。
廊下に対して、腹這いになって腐食した死体が一つあった。
「なん、だよこりゃ……おぇ」
ミグリダが後から着いてきては、その事後を確認して吐きかけた。
入って来なければ、見なくて済んだのに
「きっと、シュリのおばあ様よ。ただ――彼女が元凶でもある」
「お前……!この死体を見て何にも思わねぇのかよ!……う」
漂う異臭と共に、ミグリダは鼻を抑えながらも、私に向かって
「思わないわ。どうせ、人は死ぬ。どんな形であれ、ね」
口元を必死に抑えて、ミグリダは眼つきを変えた。
「あんたなぁ!!人の命を何だと――」
「じゃあ、あんたはシュリを見つけれるの?あたしが居なくて、あんたは何か出来るの?」
ミグリダはその一言で黙ってしまった。
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