第28話


 ……本当、人間って何でこうも自分とかけ離れた考えを持つのかしら。

 自分の命が惜しくはないのかと、あたしは思う。


「おっと、それ以上は言わなくて良い。どうせ信用できないとか言うんだろ?」


 勝手に人の思考を読まないで欲しいものだ。あたしはそんな事思っちゃいない。


「勝手にしなさい。さっきも言ったけど――」

「あぁ!分かってるって、駄目だと思えばいつでも俺の命を奪えよ」


 真剣な眼差しであたしを見つめてくる。どうやら、否が応でも付いてくるつもりらしい


「俺はミグリダってんだ。宜しくな」

「自己紹介なんていらないわよ。どうせ、貴方もあたしも死ぬ運命なんだから」


 あたしは大きく溜息をついて、ピィを抱き抱えた。


「ったく、物騒なお嬢ちゃんだな。それより、あんたの足見せろよ」

「さっき撃った所が……ってあれ?」


 ミグリダはそういってあたしの足を見るや不思議そうな顔をした。


「もう直したわよ。というか、貴方から撃たれた所なんてほんの少しの足止めにしかならないわ」


 そういって、履いているショートパンツをあたしは下した。

 ちゃんと足にも傷が無い事を見せないと、傷が治ってないからと、あたしは思ったからだ。


「ちょ、おまっ!」


 だが、ミグリダは目を手で抑え、慌てふためいた。

 何か不味かっただろうか?


「何よ、気になるなら見なさいよ。治ってるから」

「あのなぁ……」


 頭を掻きながら、困る様子のミグリダ。


「良いか、あんたは女だ。――そりゃ、俺はお前みたいな幼体には興味が無いけどな、ちったぁ考えろ」

「……何か、不味かったのなら謝るわよ」

「あー、もう!そういう事じゃねぇんだよ。ったく」

「AIってのは難儀なもんだな。感情ってもんが存在しやがらねぇのかよ」


「感情はあるわよ。あたしはただ、あの錆びた神様を壊す怒りだけしか無いってだけで」

「なら、恥じらいも覚えろよな!」


 一体全体、彼はどうしたと言うのだろうか。下ろしたショートパンツを上げながら、思う。

 あたしには、この人間の考える事が分からない。


「――取り合えず、あんた当てはあんのかい」

「無い」


 また、溜息をついた。今度は先程より大きく

 この男、面白いな。


「なぁ、お前はその錆びた神様の情報が何処にあるかも知らねぇとか言うんじゃねぇだろうな……?」

「勿論よ。あたしは、もうアイツのプログラムではない。ただのAIなのだから」

「この先が追いやられそうだ。――とはいえ、そういう事なら話は早い。一緒についてこい」


 ミグリダはそう言って歩き始めた。あたしもそれについていく。

 何を考えているか、あたしにはさっぱりだが、強力な仲間が出来た事には変わりない。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「着いたぞ」


 ミグリダが見る先には、大層賑わった港町が見える。


「あそこは?」

「古びた模造品『シグナルウォート』だ」


 ……もう未来が改変されたのか。最悪だ。


「どうした?暗い顔して」

「貴方にもう一つ言っとくわ。貴方はその街を当然の如く記憶としてあったのかしら?」

「おいおい、なんだそりゃ。そりゃ……あった……」


 ミグリダはゾっとするような顔つきになる。

 当たり前だ。何故ならば、シグナルウォートと言う街を知っている"筈"でしかないのだからだ。

 違和感のある記憶で、思い出そうにもきっと、ぞわっとするような不愉快な感覚に襲われているに違いない。


「記憶があやふやなのは仕方ないわ。あの町は、神様が創り出した間違った未来のシグナルウォート」

「未来に置ける事象は全て失敗に終わっている」

「……何の話をしてんだ?なぁ、頼むから俺にも分かりやすく説明してくれよ」


 ミグリダは違和感の覚えた記憶ではあるものの、理解力が無いらしい。

 あたしは一から十を説明する事にした。


「――するってーと、あの町はその、なんだっけ?」

「シュリ。ジートリー・シュリ」


 今まで起きた物語を説明していくと、一応は理解を示してくれた。


「そのシュリの過去の記憶みたいなのがシグナルウォート」

「で、あの場所に出来て、それを一瞬のうちに、そこはシグナルウォートである。って、神様が命じたって事か?」


「そうよ。勿論、シュリもいる。ただ、そのシュリはあたしが造った未来とは別の形を進んでいるの」

「どういう事だよ……」


 ミグリダは頭を抱える。ここまで理解力が乏しいとは思わなかった。


「あのね。もう一回言うけれど、本来あるべき姿は、あたしが造った失敗してしまった未来――そうね、ミスルートと呼びましょうか」

「そのミスルートであった未来はあるべき姿だったのよ。けど、あの神様はそれを良しとはしない」

「あの神様は成功した未来。成功した未来だから、サクセスルートとでも呼ぼうかしら」


 ただ、それは歪んだ未来。

 本来であれば、神様は成功した未来へと造り替える存在なのだ。だが――


「サクセスルートが、狂った未来になってるって事で合ってるか?」

「えぇ、シュリの未来は『人として生きる未来を望んだ少女』これがミスルートで、逆転してるの」

「つまり、神様は『人として生きない悪魔として生きる事を望んだ少女』を望んだって事か?」


 そうよ。と、私は言う。


「なんだか、ややこしいな……。つまり、ニット。あんたが望んだ未来が本当のサクセスルートで、神様はミスルートを望んでるって事で良いんだな?」

「そういう解釈が間違いないわ。そして、あの町はその最悪なミスルートを辿った町でもある」

「ややこしすぎんだよ。本当にお前AIか?AIってのはもっと聡明だろ?もっと、分かりやすく説明してくれ」

「これでも、分かりやすく説明してるわ。それに、況してやあたしは今やそのジートリーの未来を紡いだただの人でしかないの」


 あたしがそういうと、ミグリダは少し考え込む素振りを見せる。

 何か、またあたしは可笑しい事を言ったのだろうか?と、思っているとミグリダの口が開いた。


「……なぁ、聞くが。未来と未来同士を紡いじゃ行けないんだろ?だったら、お前は何の未来を紡いだんだ?」

「あら、意外にも目の付け所は良いわね」

「その通り、私はこの未来においてはイレギュラーでしかない。それでも、あたしが紡いだサクセスルート、それはね――」


『錆びた神様を殺す事を願った小さなAI』よ

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