第27話
「大層な事だけれども、私は一人で充分よ」
男は溜息を吐く。彼にとって、良い返答ではなかったようで、緊迫した空気に様変わりする。
先程まで、ヘラヘラ笑っていた男の顔はなく、明らかにこちらを敵視する目つきへと変わっていた。
「言わなかったか?もし、嫌なら殺すと――」
「えぇ、その上での返答よ。英語で言えば良いかしら?答えは"NO"よ」
「どうしてだ?俺じゃあ、力不足か?」
「そうじゃないわ。そうじゃないけれど、私と一緒の道を辿れば、それは――」
物語を――未来を紡ぐことになってしまう。
あたしが危惧している事は沢山あるが、一番は未来を紡いでしまう事だ。
「どういうことだ?」
「……詳しい説明は後、今は周りの敵を意識して」
先程の発砲音を聞きつけて、私を見つけたのだろう。
私を捕まえようとする警備隊の取り囲まれていたようだった。
男もそれは理解したようで、構えていたピストルをホルダーの中へとしまうと、持っていた猟銃を構えた。
「はいはい、俺の力を認めてもらう為にも、お嬢ちゃんを守りますかね」
「しかし、不気味だなぁ……あいつら何も喋りもしない」
先程、叫んで追いかけてきた奴らとは違い、虚ろな眼つきで、私達をただ見つめる不気味な集団。
誰一人、号令を出す訳でも、ただジッとしたまま、こちらの出方を伺っているように見える。
「仕方ないわよ。神様が私を殺そうとしているん――」
瞬間、発砲音が鳴り響いた。目の前に居た警備隊の左胸から血が噴き出し、倒れる。
一瞬の出来事に対して、何の躊躇も無くあたしは、地面に落ちてしまったピィを拾ろった。
「嬢ちゃん、あんた足を怪我してるんだから無理すんなって、というか、驚きもしないんだな。人が一人死んだってのに」
「当たり前じゃないの。あたしはそれ以上に残酷を味わってきた」
「後、足は誰のせいかしら?――それと、あたしはあたしの戦い方があるの。黙って、前の敵を殺して」
短く交わされる言葉の意図の中に、皮肉交じりも含めた苛立ちの銃弾を放つ彼は、美しかった。
重々しい発砲音は、乾いた地面を赤く濡らしていき、それを合図に、飛び掛かって行く人々。
男は軽く身を躱して、敵を一人一人確実に心の臓を的確に、ぶち抜いていく姿。
まるで、蝶のように舞い蜂のようにさす華麗なフットワークと言っても過言ではないだろう。
「はん、俺を誰だと思ってんだ。何人掛かってきても俺を倒せる訳が無いだろ」
ヘラヘラとした口調で、気が抜けたであろう彼の元に突如として、死角から襲ってくる敵。
対して、男は猟銃で敵の攻撃を防ぎ、そのまま勢いよく上段前蹴りの綺麗なカウンターが入った。
「残念だな。殺気が諸に出てんだよ」
手ごたえの無さに対し、男はウンザリしている様子だった。
「敵を甘く見るのは構わないけれど、死なないでよ。それと、ちょっとあたしの身体守ってね」
「は?何を――」
あたしの身体は倒れ、意識が無くなる。
「お、おい!何の冗談だ」
男は、あたしの身体を咄嗟に抱き抱え、それを確認した身体で一気に敵を殴りに向かう。きっと、それは異様な光景だろう。
何故ならば、抱きかかえていた筈のピィが動いているのだから
「嬢ちゃん、どういうことなんだ!」
「イイカラ!イマハメノマエノテキヲコロシナサイ!」
力強く殴っては、異様なほどの俊敏な動きで敵を一体一体薙ぎ払って行く。
「ったく、何なんだよ」
「ウルサイヤツダ。ダガ、コレデ……サイゴ!」
最後の一人に、綺麗なアッパーカットが入り、数十人居たそいつらは物の見事に倒れていた。
「嬢ちゃん、これはどういう事なんだ?」
「アタシハAIナノ」
……は?と腑抜けた声が、男の口から出た。
そりゃそうだ。人間を模した肉体があるのに、突然あたしはAIなんです。
なんて、言われても戸惑うだろう。
「トリアエズ、モトノカラダニモドルワネ」
この身体でも良いのだが、やはり自分が使っている身体が一番楽だ。
あたしは、ニットの身体をそっと触り意識を移す。
移っていたであろうピィの液晶画面は黒く閉ざされ、私の目がパチリと開く。
「ふぅ……」
「おい、ちゃんと説明してくれよ。どういう事なんだ?AIって――」
「あーもう、ちゃんと説明するから!」
戦闘が落ち着いたというのに、質問攻めは正直、ウンザリだ。
そもそも、あたしが何故機械仕掛けの神様の役目を担っていたのには、理由がある。
元々、あたしの身体はAIとして、作られたただの模造品にしか過ぎない。
意識も考えも全て、あの錆びた神様が造ってくれただけの存在で、役目を担っていた操り人形にしか過ぎなかった。
だが、あたしはふと神様に対して、疑問を持ったのだ。
何故、人の未来を壊すのか。
たった一つの訳の分からない出来事で、その未来は不確定事象として、処理するのか。
いつの日か、神様はあたしに一つの指示を――そう、人間は要らないという指示を出した。
最初は従っていた。だが、時が経つにつれて違和感を感じ、未来を壊された人々を何とかして助けられないか。そんなことを考えていた時とピィは――
「……ピィ、本当にごめんなさい」
「どういう事だよ、訳分かんねぇよ」
それを聞いた男はどうやら意図がつかめてないようだった。
あたしはため息をつきながら、説明を続けた。
「あのね、さっきの人間達、一切の悲鳴を上げて無かったわよね?」
「あぁ、それがどうしたんだ」
「神様は人間であれば誰でも操る事が出来る。それこそ"貴方"でもね」
そう。これが誰かを、味方に引き入れる事が出来ない最大の懸念材料なのだ。
あたしはAIであるが故に、思考を読まれる事も思考を操る事もまず、ない。
だからこそ、あたしはあの神様に立ち向かえると思っているのだけれども。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なら何で今、俺を操らない。お前が言ってる事は矛盾している」
「簡単よ。楽しんでるだけの事」
「はぁ……!?」
あたしは言葉を続ける。
「だから、楽しんでるのよ。あんたの妹が死んだのも、この世界の不条理な出来事もどれもこれも錆びた神様が行った最低最悪なパーティのお陰よ」
ただ、楽しんでいる。それだけの事。
誰かの発明で大量に人を殺すような毒物の開発も、火山が噴火して人が住めなくなるような土地も、どの事象もあの神は操れる。
「……」
男は口を開けて、あっけらかんとしていた。当然だ。
今まで起きてきた出来事の全てが、造られていた神様がただ楽しむ為の余興でしかない。そんな事を言われて、人が困惑するのは当然だ。
だって、今まで生きて頑張ってきたことは全て意図があっての未来。
誰だって絶望するしかない。
「分かった?――それじゃあね」
「……待ってくれ」
私は、歩き始めると男は引き留めてきた。
コレ以上、何を話すことがあるのだろうか?あたしは一通り説明したのに、これだから人間は訳が分からない。
「付いていく。俺もその神様とやらをぶちのめす」
「――聞いていた?あたしの説明を。確かに、あたしにとっては確かな戦力になるのは事実。けれど、それと同時に時限爆弾でもある」
「もし、俺が操られていると分かった時は、その時は殺せ」
へぇ……。本当に、何を考えているか、分からないわね。人間ってのは。
「良いの?――言っとくけど、容赦はしないし。況してや、一瞬でもその素振りが見えたら」
「構わない。俺の人生がそんな腐りきった神様の歯車でしかないなんて、真っ平ごめんだ」
「だからこそ、俺が俺である為にその神をぶん殴ってやる。そんでもって、言ってやるんだ」
俺はお前の操り人形じゃねぇ!ってな
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