第二部【Deus ex machina】
第26話
あたしは、ピィを抱き抱えて、必死に追っ手から逃れようとしていた。
確かに起きた、あの日の出来事。あたしは神に背いたんだ。
そして、その日からあたしは世界から追われる事になってしまった。
あたしがこの世界に居る事で、世界は崩壊してしまう。だからこそ、人はあたしを殺そうとしてくる。
今までは、あたしがこの世界を守っていたってのに、人間ってのは本当、ふざけた連中だ。
「居たぞっ!こっちだ!」
追跡者の声が、私の耳に届く。
見つかった。逃げなくては……そうしないと、あたしもこの世界も殺されてしまう。
あたしが殺されてしまえば、それこそあの神様の思惑通りだ。
あたしは必死に、走った。真っ暗の夜空、照らしている月だけを頼りに、道なき道をひたすらに走る。
石に躓きそうにも、身体に痛々しい棘が突き刺さろうとも、あたしは必死に逃げていた。
そして、開けた道に出た途端――
ずどんっ!
「っぁ!」
あたしは、撃たれた。躊躇なく
咄嗟に撃たれた左足を抑えてしまい、抱き抱えていたピィが私の腕から転げ落ちる。
激痛に耐える私を他所に、倒れこんだあたしに向けて、不敵に笑う一人の男性が近づいてきた。
「悪いなぁ、嬢ちゃん」
男性の持っている猟銃からは、火薬の匂いが漂う。どうやら、撃ってきたのはこの男に間違いないようだ。
「ぁぐっ、ぅ」
何としてでも逃げないと。そう思って、あたしは身体を這いずり、どうにかして逃げようとする。
が、逃げる先には、その男が仁王立ちで立ち塞がる。
そして、あたしの顔に目掛けて、右足のホルスターに携えていた拳銃を取り出し、構えた。
「嬢ちゃん、あんたにゃ恨みは無いが――」
『死んでもらうぜ』
ずどんっ!――ずどんっ!
二発の銃声が鳴り響いた。あぁ、あたしはここで何も出来ずに死ぬんだ。
そっと目を閉じ、人生の終わりを自覚する。だが、襲ってくるであろう強烈な痛みが無い。
可笑しい。足を撃たれただけでも、あれだけの激痛が襲ってきたというのに。
あたしは閉じていた目を開けて、放たれた銃弾の弾痕を探すと、何故か私の横腹にわざと外して、撃たれていた。
「……気が変わった。なぁあんた、元は神様に仕えていたんだろ?」
落ち着いた素振りで、その男は聞いてきた。あたしにとって、助かるなら何でも良かったが、この男が考えている事は容易に分かってしまった。
どうせ、神としての力を俺に使ってくれ。とか、言うんだろうな。
自分の欲望の為に、力を使う事なんて良い事など何一つ無いのに。
「えぇ、そうよ。だから何よ。言っとくけど、あたしにはもう神としての力なんて無いわよ」
「ん?あ、違う違う。仕えていたなら聞きたい事があるんだ」
何なんだ。この男は。ヘラヘラとした口調、何より私の考えていた事を察したようで、苦笑いをしている。
あたしは、神に背いた反逆者。
とっとと殺せば良いのに、何を聞きたい事があるんだろうか。
「なぁ、神様ってのはどんな運命でも導いてくれるんだろう?」
えぇ、そうね。錆びた神様は、自分にとって都合の良い世界へと造り替えるわ。
たった一つの紡ぎさえ許さないご都合主義な神様。
あたしはそいつにお灸を据えたいだけなのよ。
あたしが知ってる事を一字一句間違えずに答えた。
それを聞いた途端、その男の顔は妙な面付きでしゃべり始める。
「なら、聞くが。俺の妹が殺されたんだ。それもご都合主義って奴なのかい?」
「そうよ」
「そうかい。そうなんだな。ははっ」
「突然、笑いだしてどうしたの?」
顔を抑え、そいつは滑稽な程に高笑いをし始める。気でも狂ったのだろうか?
「本当に気が変わった。なぁ、嬢ちゃんその反逆俺も混ぜてくれ」
「――どういう風の吹き回し?」
「嫌なら、お前を殺す。良いなら、お前を助けてやる」
男は「悪くないだろ?」なんて言ってるが、あたしにとっては選択の余地などなかった。
何より、あたしですら感じ取れるほどの強烈な殺意を感じ取れた。
きっと、妹が大事だったんだろう。
大事なのに、殺されたのは神様のいたずら気分で決まった事。そう考えれば、煮えたぎる様な怒りを覚えても仕方ない
勿論、それはあの錆びた神様の問題では無いのだが。だとしても、貴重な戦力になるかもしれないのであれば、下手な事を言う必要もない。
利用出来るものは何でもさせて貰おう。
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