第30話
「あたしだって、死体なんて見たくも漁りたくも無い。でもね、それでもあたしはあの神様を壊したいの」
"目的を忘れないで" あたしは、死体に顔を向け、手を合わせて合掌をした。
死者に対する、尊敬の念と敵意の無さを示す為の行為を終えた後は、そのまま、死体へと手を掛ける。
それを見たミグリダは小さく舌打ちして、見兼ねてしまったようだった。
彼は、家の外へと出て行き、背中を見せる途中で
「終わったら教えろよ」
一言、冷たい言葉を発して、勢いを付けられたドアを閉めてしまった。
(貴方に言われなくたって、非人道的行為だって事ぐらい、あたしも理解してる)
心の中で、呟いた言葉は罪悪感が伴う。当然だ。
死体漁りなんて行為、良いとは思ってない。
けれど、今はそんな躊躇してる暇など無いのだ。
どんな手段でさえ、あたしは最善の一手を打ってる。
だからこそ、迷いを持つ。何て、思い切りの悪い事は出来やしないって、理解してる――つもり。
「……」
うつ伏せになっていた死体を、ひっくり返す。
首元には小さいながらも噛み傷が見受けられた、出来た傷はまだ鮮明である為なのか、ゆるりと一滴が垂れていく。
と、同時に違和感を感じ覚えた。その、違和感は至って当たり前な考え。
あたしはこの未来が造られた原因を知っている。
だからこそ、照らし合わせた自分の中でのデータは確かなる確証を得るには十分過ぎた。
「ねぇ、いい加減起きてくれない?――シュリのお婆様」
シュリは夢魔(サキュバス)と吸血鬼(ヴァンパイア)の混合種。
その血族に当たるお婆様が早々と腐る事も無い。
況してや、そんじょそこらの怪物に比べたら圧倒的な生命力を持っているのに、腐乱臭のする死体。
で、あれば傷跡はどう説明する事が出来ようか?
きっと、誰が、どう見ても可笑しかったに違いない。
「……気づかれておったか」
「傷跡を見てから、確信して声を掛けたってのもあるけどね。――で、何があったの?」
「ふん、シュリの事なぞはもう儂とて知らん。と、言いたい所じゃが、お主。訳アリみたいじゃからのぅ」
ふぅ、と老婆はため息をつき、身体を起こしては壁を背に置いた。
歯切れの悪い声質と共に、息を切らし。そして、一呼吸置く。
「何が聞きたいのだ?」
真っ直ぐに捉え、しわくちゃのお婆様を前に、私は単刀直入に話を切り出した。
「そうね。シュリは何処に?」
「あの子なら、もう既に悪鬼化してしまっておる……何処に行ったかは儂とて分からん」
彼女の想い。それは『埋葬』の未来を望んでいた。
自分が自分で無くなる。そうなる前に、自分を一思い殺してくれる人を望み続けたジートリーの未来
だからこそ、悪鬼化は最悪な物語でしかないのだ。
私が造った未来は、死ぬ事も老いる事も、もう出来ない身体へと成り果てたのだから。
「逆に儂も聞きたい事がある。何故、儂がシュリの血筋であると分かったのじゃ……?」
不思議そうに、あたしに問いてきた。
だから、あたしは全てを理解出来る言葉を発した。
「それは、貴方が母親であるから、そして、エイヴを別次元へと送った張本人だからよ」
「ふふ、ははっ」
対して、老婆は懐かしいと言わんとばかり、笑っていた。
彼女の名はジートリー・シトリア
「……全てはお見通しと言う事か、良かろう。全てを語ってやろうぞ」
そう、彼女もまたジートリーの名を継ぎ――そして、あたしが過去に造った最悪なシナリオを体感した。
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