№20【Tears?】No, I won't shed tears

第21話

 ごぉんごぉんと、修道院の中で鐘の音が鳴り響く。

 私は手を組み、お祈りをしていた。


「シルバ、今日もお祈りですか?」

「えぇ、神父様」


 私は、組んでいた手を放し、話しかけられた方を見た。

 中央のステンドグラスから漏れる陽の光が、神父を照らしている。

 聖書を片手に、私に向かって歩いてくる姿は、神々しさを感じ、私は目を逸らした。


「シルバ、君は本当に熱心な子だ」

「熱心などではありませんよ。私は、罪を犯したからここで懺悔をしているのです」

「また、それか」


 神父は、小さく溜息を洩らす。


「もう、気にしなくていいのに、アレはだ。―――君は何も悪くない」

「ですが――」

「気にしていてばかりでは、神も許しておくれはしないよ」

「失敗したのなら、次に活かす事が大事なのだから」


 優しく諭された私は、ハイ。と答える他無かった。


 私の名はシルバ

 虚栄心によって、自惚れた結果。助ける事を叶わずに、彼氏を失った罪深い女。

 ただの起きた事故だと、神父は言ってくれたが

 彼氏から言われたあの一言が未だに突き刺さっていた。


『早く、逃げるんだ。君の力だけじゃ、どうにもならない』


 ―――私は、今まで何をしていたのだろう。

 勉強嫌いだった私は、常に神学だけを信じ続けていた。

 神としての力を賜り、それを力として使う聖なる技法。


 だから、誰でも助けられると。

 神に祈れば、助けられると思っていた。

 けど、私は助けられなかった。


 助けられると思った傲慢と見栄を張った虚栄心によって、大事な人を失ったのだ。


「シルバさん?」


 神父の一言で、私はふっと考え込んでいた意識が現世へと舞い戻る。


「あ、っえと」

「ボーっとするのでしたら、今日は帰ってゆっくり休みなさい」

「…はい」


 とぼとぼと歩きながら、私は教会を後にした。


「あー!しるばおねえちゃんだ!」


 歩く最中、指を刺された小さい男の子が一人

 その子は私が住んでいた近所の子で、父親と母親が共働きという事もあって、よく面倒を見ていた。


「うん?どうしたの?」


 ゆっくりと近付き、その子に目線を合わせるためにしゃがむ。


「あのねー、これみてよー」


 男の子は、煌めく石を見せてきた。


「きれいでしょ~?」

「ふふっ、そうね。お母さんにプレゼントするのかな?」

「んーん!これ、しるばおねえちゃんにあげる!けっこんゆびわなんだ!」

「あら、嬉しい。でも、おねえちゃんは好きな人がいるからなぁ~どうしよっかなぁ」

「え~!!」


 男の子は悔しそうに、地団駄を踏みながら、仕方ないといった顔をし始めた。


「ちぇ~、フラれちゃった~」

「ふふっ、でも、気持ちは嬉しいよ。ありがとう」


 私は、その男の子の頭を撫で、後にした。

 そこから歩いて数分して、自宅について、玄関へと入る。

 目に映るのは、男性の靴や近くのフックに掛けられた仕事用のカバン。


 もう、居ないと分かっていても、何故かそこにまだ居る気がして気が可笑しくなりそうだった。


「姉さん、また教会に行ってきてたの?」


 二階に続く階段から、降りてきたのは私の弟だった。


「良いでしょ、私が何処行こうが構わないでしょ」

「構わないけど、もう忘れなよ。あれからもう―――」

「分かってるわよ」


 遮るように、怒りを込めて言い放ったその言葉を聞いて、弟はビクッと驚いていた。


「姉さん、大丈夫?」

「大丈夫だけど、疲れたから今日のご飯、作ってくれる?」

「あ、あぁいいよ。リクエストはある?」

「特に―――と言いたい所だけど、グラタンが食べたいな」

「分かった。んじゃあ、買い出し行ってくるから、留守番宜しく」


 弟は二階に戻り、買い出しの準備をし始めた。

 私はというと、一階にある彼の部屋に入って、虚しさを埋めるようにベッドへと飛び込んだ。


「…」


 優しい彼の匂いを嗅ぐと、芯を貫くような心の痛みを覚えた。

 跳ね上がる心臓の鼓動が、つらい思い出を忘れさせようと必死になっているのが分かる。

 一体、私は何を信じて生きて行けばいいんだろう。


chapter1

【信じる事は出来ても、それを同一視する事は出来ない】

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