第16話
静まり返った店の中の雰囲気は最悪だった。
先程まで活気溢れていた空間は無く、どうしようもない怒りだけが残っている。
「―――行くわよ」
シュリはそんな状況にも関わらず、一言そう言い放った。
「どこにだよ」
「決まってるじゃない。マーさんを助けに行くのよ」
「――は?」
少年は、予想外の返答で驚いてた。というより、唖然としていたが正しいかもしれない。
「何?私、可笑しい事言った?」
「言ったも何も―――あんた、どういう事か理解してるのか?」
「えぇ、この国の反逆者となっても、あの人を救いたいって言ってるわ」
可笑しいのかしら?と、さも当然と言った顔つきだった。
「あんたは、見ず知らずのただの客だ。なのに――」
「決まってるじゃない」
少年の疑問を遮り、言葉を返すシュリ。
「アイツがムカつくからよ。――まぁ、もう一つは子供だからとバカにして、挙句、魔の者を貶したってのもあるけどね」
「それ、一つじゃないだろ…」
どっちでもいいのよ。―――とにかく!
行くわよ!と声をかけて、少年の手を引っ張る。
「お、おい!俺は行くとは―――」
驚いた少年は手をはねのける。シュリは立ち止まり、少年の顔を厳しい目線で真っ直ぐ捉える。
「じゃあ、何?あんたは、大事にされた人すら救わない臆病者だって言うの?」
「それは―――」
「違わないわ。少なくとも、あんたを愛して、そして一緒に居て楽しいから親として引き取ったと思うわよ」
そんな臆病者とは居たくないわ。
そういって、扉を開けて強く閉めるシュリ
悲壮な顔をした少年がただ、ポツリと残るだけだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(とは言ったものの――)
シュリはどうしようかと悩んでいた。そもそも、この国「シグナルウォート」はシュリの戸籍も登録されている。幾ら街はずれとはいえ、戸籍がないと何もできないからだ。
仮に、マーハイトを助けに行こうとして、少しの痕跡でも残せば、反逆者の仲間入りだ。
逃げる場所も、亡命先の国、ツテも無いこの状況で、自分の身分を隠し通せるだろうか。
―――結論から言えば、無理だろう。
「はぁ…」
頭を抱え、一度宿屋に戻っている自分の力の無さが嫌になる。
寝っ転がったベッドの上で、何度も何度も救出方法を考えていく。
勿論、どの方法も行き詰まりを覚え、どうにもならない。
第一、マーハイトが収容されている施設すら分からない。
勿論、酒場などで情報を聞き集めれば良いかもしれないが、自身がマークされていた場合下手すると対策されかねない。
そうなればお終いだ。至る考えは罪を被った反逆者になり下がる。
それでは、ダメ。もし、そうなればマーハイトにも迷惑が掛かってしまう。
なら、この国に反逆する者達であるレジスタンスに情報を聞く?
―――それもだめ。そもそもこの国の治安は、"異常”な程治安が良い。
きっと、この国に歯向かう者などいないだろう。況してや、仮に居たとして力を貸してくれる訳がない。
素性が分からない奴に手を貸す程バカではない筈だからだ。
「駄目ね。ホント、力が無いってのは良い事が無いわ」
サキュバスとしての力はあれど、それを生かす知識がない。
全知全能という言葉が嫌というほど今の自分に突き刺さる。
考えれば、考えるほど時間は刻々と過ぎ、時計を見れば深夜の2時過ぎ。
ぐぅとお腹はなり、小腹が空いてきた。
テーブルに置かれた夜食に手を付ける事にした。
今晩のご飯は、軽く焙られたフルーツに、備え付けられたバケット。
そして、ジャムやマーガリンが添えられいた。
食べる暇もなく、常に考えていた為か。酷く冷めており、少し硬く感じるがそんなのは関係ない。
私はバケットを取り出し、ジャムを塗っていく。
「責めて、マーさんの位置さえ判れば―――」
食べ進んでいく最中、私の鼓動は一つの考えを打ち浮かべた。
「――もしかしたら」
シュリは、食べかけのバケットを置き、窓を開けて飛び立った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
サキュバスには飛行能力とは、別にもう一つの能力があった。
それは「魔力探知」である。
本来、魔力探知は相手の血を吸う為、魔力活動が活発な人間を探すための能力である。
サキュバスは人間の血を吸うと同時に、相手の魔力を吸う事で生きる事が出来る。
その為に、シュリは魔機を使って、魔機そのものから魔力を吸い取る事により、生き永らえとした。――人間を襲いたくはないからだ。
考え付いた方法というのはマーハイトの魔力を追う事だった。
あの店には、大量の魔機があった。気がかりなのは、それらをどうやって揃えたかである。
そして、マーハイトはこう言っていた
『どうせ、拾いもんみたいなもんだから』と
これにヒントを得たのだ。
魔機には二つの生成方法がある。
一つは、自然生成された遺物である。これは、基質の本がそれに該当する。
もう一つは、人為作成された遺物。これは、多量の魔力と基質に対しての知識があって、作り出す事が出来る錬金術みたいなものだ。
マーハイトが言っていた拾い物という言葉がもし、自分で作成したから拾ったようなものと言った揶揄なのであれば――
「あった――」
明らかに、可笑しい程の強大な魔力を感知出来る筈なのだから。
chapter6
【誰か救うためには、全てを手に入れる必要がある。――では、全てを手に入れる為には?】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます