第15話

「ま、そんな暗い話は置いといてさ。シュリちゃん、魔機を買いに来たんでしょ?」


 マーハイトが明るく振舞い、店のカウンター前へと歩いていく。


「うちは、カフェもやってて、魔機以外もあるから、そっちの方でも―――あぁ、そのコーヒーはこっちの奢りだから気にしないでおくれよ」


 通りで、店中にも拘らず綺麗にそろったテーブルとイスが設置されていたのか。

 そう納得しつつ、シュリは立ち上がり、店の中を歩き始める。


 様々な道具の数々に、圧倒されながら必要な物を手で持ち、確認しながらカウンターへと置いて行く。


「あれ?これって」

「ん?」


 カウンター奥の方で、忙しそうに整理していたマーハイトは振り向き確認すると

 シュリの手元には、古びた一冊の本。


「あぁ、それかい。それは、基質の本だよ」

「基質…?」

「そう。知っての通り、この世界にはマナが溢れてるのは知ってるね?」

「その基質を、書き記し、初心者でも扱えるようにした本――まぁ、初心者用の魔道道具の一種さね」


 ふ~ん…と、シュリは興味無さそうに答えるが、こういった物はかなり貴重な物の筈。

 ましてや、マナを基質として捉え、魔道の力へと変化させるという事は

 それ即ち、魔女としての資質を得るという事


「これ、一応聞きますが幾らなんですか?」

「200ジェルで良いよ。そもそも、それはシュリちゃんみたいな魔に片足でも突っ込んでなきゃ使えないしね」


 それに対して、少年が「おいおい…流石に安すぎねぇか?マー」と言葉を掛けてきた。


「良いんだよ。貴重って言ったって、これら全部実質拾いもんみたいなもんさ」

「使ってくれる人がいなきゃ、全く意味がないからね」


「じゃあ、これも買わせてもら―――」


 突然、ドアが乱暴に開けられた。

 がらんがらんと呼び鈴が綺麗に奏でる事もなく、偉そうな軍服の着た一人と兵士2名がずかずかと入ってくる。


「なんだい、あんたら」

「マーハイトだな?」

「あぁ、そうだけど―――何、国の命かい?」


 あぁ、そうだ。と冷徹な顔付きで、応え、異様な空間の中、その軍服の人は話をつづける。


「その少年を預かりに来た」

「はぁぁ…懲りないねぇ、だから、この子は渡さないって言ってんでしょ?」

「第一、あんたらにだってこんな事をする権利は無いはずだ。親御としての申請は既に出して、通してるし。もし乱暴にでも連れて行こうもんなら――」


 やれやれとマーが続ける言葉を遮り、「黙れ」と一言だけ呟く

 初めて見るその光景はシュリにとって、訳が分からず

 そして、一言で、空気が更に重くなっていくを感じていく。


「黙れは無いでしょ。ったく、お偉いさんってホントに役に立たないねぇ」

「我々はその子の力が必要なのだ。にもかかわらず、国の意向に従わないのは立派な反逆罪ともとれる」

「あのねぇ――」


 言い返そうとするマーハイトだったが、そこで言葉が詰まる。

 きっと、マーハイトもこの状況は日常茶飯事なのだろう。

 大きくため息をつき、見ている限りだとウンザリとした顔つき。


「幾ら行っても、この子は―――」

「あぁ、そうだ。マーハイト。――貴様には、詐欺罪の疑いが掛けられている」


 またもや、言葉を遮って、言葉を返すその軍服の男は、不敵に笑っていた。


「はぁ?いつ私が詐欺を働いたってんだい」

「それは、知らんな。――だが、容疑が掛かっているのは事実だ。同行しないのなら、罪を認めたとして今この場で拘束させてもらう」


 緊迫した雰囲気の中、シュリは少年とマーハイトにアイコンタクトを送る。

 初めて会ったばかりだというのに、マーハイトは何とか察せたらしく、動かなくても良いと首を小さく横に振ってきた。


「で?拘束して、私を遠ざけて、あの子をかっさらうっていうのかい?」

「それは貴様の知った事ではないだろう。マーハイト」

「へぇ――よくまぁ非人道的な行為が出来る事、まぁ、私は構わないよ」

「ただ、あの子には、今そこにいるが居るんだ」


 手荒な真似だけは止めておくれよ?とマーハイトはそういった。

 少年もその言葉で察したようで、この場はシュリと少年で何とかしてほしいという事なのだろう。

 重みのある判断だが、下手に手荒な真似をすれば、何が起きるか分からない。

 そんな中の判断であれば、これは幾分マシとも取れる行動ではあった


「ほぅ。ガールフレンド…ねぇ、あの少年を好きとは余程の物好きか」

「悪い?あんた達みたいな、国のおまわりさんごっこしている犬よりかはよっぽど堅実的だと思うけど?」


 含みを込めたシュリの一言にピクリと眉をしかめる軍服の男性


「ふむ、大層な言い方だな。お前、名前は?」

「ジートリー・シュリ。あんた達に、あの子は渡さないから」

「子供ながら異質な気配。――魔の者だな?ははっ、これは笑える」


 ポンコツ同士とはお似合いだ。と、手で顔を覆い隠しながら含み笑いをする様は小馬鹿にしているとしか取れない


「―――まぁいい。連れていけ」


 御意!と、兵士がマーハイトに駆け寄り、掴みながら店の中へと出ていく。


「マーさんに何かしたら、承知しないから」

「安心したまえ、手厚く”保護”するだけなのだから」


 そういって、強くドアは閉められた。


chapter5

【いつもそうだ。国は誰も救わない。誰も――だから私は狂った】

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