第17話

 誘導されるように線引きされた強い魔力の痕跡が見て取れた。

 赤く濁った魔力の道は、人気の無い旧街区画へと向かって行く。


(明らかに、牢屋とはかけ離れている場所に向かってるわね)


 強くなっていく魔力の痕跡をひたすらに追う。

 そして、魔力の痕跡は一つの廃墟と化した一軒家の中へと吸い込まれていく。

 手前には、一人気怠そうに立っている兵士。


「あー、そろそろ交代だぞ」


 元々、外に居た兵士はやっとかと言わんばかりに、家の中から出てきた交代の兵士と入れ替わっていく。

 交代した兵士はというと、眠そうに瞼を擦りながら、辺りを警戒している。


(見回りを置く辺り、何かあるとみて間違いないか…それにしても、警備が薄い気はするけれど)


 シュリは辺りを見渡し、近くに伏兵が居ない事を確認し、そっと音を立てないように近付いていく。

 回り込むような形で、進んでいき、近くの草むらで隠れて機会を伺う。


「はぁ~、あー、早く終わらんか…師団長は人使いだけは荒いんだから」


 兵士が武器を置いて、背を伸ばした瞬間をシュリは逃さなかった。

 瞬時に近づき、兵士の首元を手で掴み、強力な魔力を流し込む。


「――せめて、安らかに眠って」

「がぁっ!?」


 突然の事で、驚く兵士の口からは悲鳴が出る。置かれた武器を横目に、虚ろな眼差しをする兵士を横目に、彼女は、そっと兵士の瞼を閉じた。

 生を失った鎧甲冑の来た兵士を軽々と持ち上げ、見つからないように木の陰に隠し、辿って行った魔力の道を追いかけていく。


 中に入っても、交代したはずの兵士は居らず、地下へと続く階段だけがそこにはあった。

 明らかに、廃墟の間取りとは別に人為的に作られたそれは、異質で何より、強い魔力のをシュリは感じ取る。

 階段に近づき、降りようとしていこうとするが、シュリの足はそこで止まった。


(これ――基質変換ね)


 危ない、危ないと言わんばかりに、踏み込もうとした足を止め、後ろへと下がる。


(幻異タイプかしら…となれば、何処かに媒体基質がある筈――)


 意識を集中させ、辺りの魔力を感知していく。その刹那、シュリの頭に強い衝撃が襲い掛かってきた。


「ぐっ――!」


 咄嗟に後ろを振り向き反撃しようとするが、背中を蹴られるような痛みに襲われ、反撃叶わずそのまま近くの壁へと勢いよく激突する。

 廃墟の埃が舞い上がり、全身に広がる苦痛に、焦りを隠せない。

 そんな中、立ち上がろうとするシュリだが、力が入らずその場に倒れこんでしまう。


「うぅっ」


 力無い声が漏れだす中、聞き覚えのある笑い声が聞こえてくる。


「ははっ、来ると思ってましたよ。シュリ」

「糞犬…っ!」

「おっと、犬ではありません――勿論、貴方は私を国家の犬呼ばわりするみたいですが」


 その男は近付き、這いつくばっているシュリの身体をじりじりと踏みつける。


「ぅあ、ぁっぁああ!!」


 先ほどの激突によって、背中の骨が折れたのか、悲痛な叫びが出ていく。


「良い悲鳴ですね。可愛らしい声に評して、貴方に良いものをあげましょう」

「ぁ…っ、そん、なのいらないわね、この糞犬―――っ!」


 唾を軍服の男の靴へと吐き捨て、シュリはその軍服の男を見上げ、睨みつける。


「ここまで、痛めつけられても、尚、歯向かい戦おうとしますか」

「元々覚悟の上、よ」


 弱々しくほざくなよ。魔の者が。

 そう軍服の男は強い圧力と殺意をシュリに向けて、言い放ち睨みつける。


「さて、私の兵士を殺したのですから、それくらいの覚悟がなくては困ります」


 シュリの首を掴み、持ち上げながら強く締め上げていく。


「っ…っぁ…」

「苦しいでしょう?辛いでしょう?ですが、に比べればどうと言う事はありません」

「さぁ、逝きなさい。貴方も彼女の元すぐに送っ―――」


 反撃しようにも、手に力も入らない。もう駄目だ。

 遠のく意識の中、走馬灯のように過去の出来事が巡るめく思い出していく。

 所詮、私は低級魔族の端くれでしかない。


 誰かを守ることも

 誰かを救うことも


 母親も

 父親も


 生きるべくして、ですら、守れないのだから―――

 シュリはそっと目を瞑った。



基質変化エレメンタルチェンジ 弓銃ガンシューター!!」


 自分の死を受け入れようとしたその瞬間、聞き覚えのある声と共に、発光した矢じりが男めがけて飛んでいく


「っ!?」


 咄嗟に、シュリを投げ捨て、回避を行い、飛んできた方向を見る。

 シュリは、飛ばされた影響で、地面へと叩きつけられ、意識を取り戻す。


「げほっげほ、っぁ…はっぁ…あっ」

「おい、大丈夫か。


 その呼び方は、聞き覚えがあった。

 身体を起こしながら、聞こえてきた扉のほうを見ると、あの少年であった。


「五月蠅いわね…っ。ちんちくりんじゃないって、言ってるでしょうが」

「ふん、お前はちんちくりんだ。体もちっせぇ、邪な魔の者だ」


 けどな、お前は俺の彼女ガールフレンドだ。

 ――母親を守れないのに、彼女すら守れないとか嫌なんでね


「はっ!カッコつけてる場合かしら?」

「その通りだ。魔の者よ」


 軍服の男は、シュリ目掛けて、横につけていた剣を抜き、突撃していく。


「おいおい、だんなぁ?こっちも舐められっぱなしってのは嫌なんだけど?」


 構えていたそれを、相手の眉間目掛けて弾丸が放たれる。


「ふんっ!」


 男は物おじせず、剣ではじき返し、少年のほうへと向く。


「ふむ、それが貴様の力か」

「まぁね。――でも、この力を使ったからには、にさせて返さないと気がすまない」

「言っていろ。貴様はもっと苦しめて殺してやろう」


chapter7

【人は、常に誰かの業を背負って生きている――故に、その業抱き続ける強さが必要だ】

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