第9話

  画面の裏側に映し出された慌てふためく研究者達

  これは望まれたシナリオなどではない。

  分かり切った事だ。僕自身、それを何度も繰り返している。


  繰り返しては、直して壊して修正して破棄され

  一体、僕は何の為に動いている?

  分からない言語だらけを背に、僕は彼女を起こした。


  それとなく、夢だと偽って彼女を起こす。


  だってんだもの


  僕は望まれた世界を作り替えるだけの存在でしかない。


  さぁ、起きて 灯。君はまだ、死んじゃいけない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どうやら、長く苦しい夢を見ていたようだった。

 冷や汗だらけでジットリと濡れた手汗を拭い、体を起こす。

 自分が死ぬ夢なんて、どう考えても気分が悪い。


「大丈夫?アカリ」


 見兼ねたエイヴが心配そうに声をかけてきてくれた。

 大丈夫なんて言いたかったけれど、あんな場面を夢として見てしまっては何とも言えない。自分が穴あきチーズになる光景など――――だめだ。思い出してしまって、どうにかなりそうだった。

 それは不運の前兆かもしれないし、ただの悪夢だったのかもしれない。


「ま、貴方が何を見てたかは知らないけれど、後もう少しなのよ気を引き締めて」


 そうだ。後少しで通と会えるのだ。頑張らないと。

 偶然見つけた一つの痕跡。エイヴが居なければ、きっと見逃していたであろう痕跡

 私は奇跡だと喜んでいた。けれど、エイヴは違っていた。

 エイヴは何故か、怪訝そうにその痕跡を見ていたのだ。

 きっと、彼女にしか判らない事だろうと思い、聞いてみるが今は話せないと言われた。

 正直、気になるが私はそんな些細な事より奇跡的に見つけた彼を追う事に夢中だった。


 きっと、あの悪い夢も急いで疲れてしまったが為に見てしまったものなのだろう。

 気にせず、今は彼を――通を追う事だけに専念しよう。


「さ、行きましょ。休憩は十分よね?エイヴ」


 エイヴは頷き、荷物を片付け、移動する準備を始める。これから向かう場所は、ある都市部の一角。通はそこにいる筈だ。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ギ―――ギィ」


 がちゃがちゃと音を出しながら横行する魔機。

 何を探す訳でもない。ただ、延々と周りをうろつくだけの存在。


「厄介ね。至る所に魔機がうじゃうじゃ」


 どう見積もっても、軽く数十体は居る。

 裏道をこそこそ隠れながら、歩いてきたものの、通がいるであろうビルの中に入るには、その一本道を走り去るしかない。


「どうするの?アカリ」

「普通に考えて、一人が陽動。もう一人が探索―――って言いたいところだけど、エイヴ。貴方、通に聞きたいことがあるんでしょう?」

「えぇ。今は貴方にも話せないけれど、少し、ね」

「となれば、中に魔機が居る事も想定したとしても、貴方一人だけじゃ行かせられないわね」


 さて、どうしたものか。

 この際、イチかバチか走っていく…?いや、危険すぎる。敵がこれだけとは限らない。もし、呼ばれでもしたら、それこそお終いだ。


「あーあ、こんな時空でも飛べたらなぁ…」


 晴れ晴れとした青空を見上げ、そう呟いた。


「出来るよ」


 エイヴがそう言った。


chapter9

【"認識”されないだけの存在で、僕は居る】


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