第8話
鉄梯子を下りてから数分程度、今、私達は薄暗い空間の中を彷徨っていた。暗く淀み切った中で、ふわりと浮かぶエイヴが出してくれた魔法の光の玉を頼りに慎重に進む。
生き物の気配は感じられず、誰かに荒らされた様子も無い。
明らかに不自然だ。森に囲まれた場所な上、魔性によって蝕まれた森に誰も居ない事は見当がつく。――それにしては余りに綺麗に残りすぎているが。
誰かが居るのなら、少しの痕跡だって残っていても良いはずだ。けれど、それすらもない。
つまり、作った
作られた意味はあるのに、誰も手を付けずにここまで可能だろうか。だから、私は一つの懸念を示していた。
「ねぇ、アカリー。どこまで歩くの――」
また、エイヴが怠そうに言いかけた時、足元の床がガコンと鳴った。
耳をすぐさま澄ませると、奥から何か飛んでくる微かな風切り音が聞こえる。咄嗟に私は後ろにいるエイヴに向かって庇うように倒れ込む。
頭上をすり抜けていく大量の鉛玉、それを受け止めるかのように瞬時に出てくる一枚壁。成程、もし逃げようとすれば壁が塞がり、逃げる事なく風穴だらけと言う事か。
激しい銃撃音が鳴り止まない。私は飛び散る火花から守るようにエイヴを守る様に身を低くし、事が終わるのを待った。
「な――なんなのよ!あれは!」
「古典的ブービートラップね。成程、通りで人一人居ない訳だ」
うんうんと頷く私を他所に、涙目になりながら泣き叫ぶエイヴ
「中々に防衛は組まれてるな。凄い出来だ」
「関心してる場合なのかしら!?」
シェルターとして作っているならこの防衛装置は素晴らしいと思っただけなのだが、どうやらエイヴは怒っているようだった。何故だろう?
歩き疲れて来る頃、大きな扉が私とエイヴの前に立ち塞がった。
エイヴはというと息を切らし、もう二度とあんな目に合いたくないと言った顔だった。私はトラップを堪能していたというのに。
「――エイヴ、行くよ」
扉の前にトラップが無い事を確認し、そっと中を開ける。鳴り響く不気味な音が耳に残りつつも、数センチ空いた隙間から中を覗いた。誰も居ない。あるのは無機質な空間と何か機械の塊だけだった。
意を決し、勢いよく開け、中に入る。その空間は異質だった。
何で、隙間からのぞいた機械仕立ての殺風景な風景がこんなにも、さわやかな晴れ晴れとした平地なんだ?
風が流れ、木々や原っぱが揺れている。嘘っぱちじゃない平和な空間。まるで、この世界じゃないようなそんな雰囲気の場所に私は入った。
「なにこれ――」
後ろからついてきたエイヴも驚きを隠せないでいたようだった。どうやら、私だけが幻覚を見せられている訳でもなさそうだ。
少しずつ、前に進むとバタンと勢いよく、扉は締まった。
「Ms Knit おはようございます」
機械の独特の言葉が耳に響いてくる。
「エイヴ、あんたが喋ったの?」
「わ、私は喋ってないわよ!」
「Ms Knit 命令を」
空間内で響く異質な光景と共に、聞こえてくる言葉。
「待って、私はニットなんかじゃない。私は飛蝶 灯」
「―――名簿program起動 飛蝶 灯 該当する人物はありません」
「よって、抹殺します」
「え――」
目の前の美しい情景は一瞬の内、消えさった。そして、現実へと戻されると突き付けられる大量の銃器
「発射」
凄まじい轟音が鳴り響く。身体を貫く弾丸、燃え盛る火炎に吞まれながら、私は吐血し、倒れ込む。
「アカリ!」
エイヴがこっちへと寄ろうとする。
「ダ――メ、こっちきちゃダ―――」
「生存を確認、更なる火力を要求します」
エイヴへと来るなと言い切れないまま、更に増す銃撃は最悪な状況を物語って居た。意識が遠退いていく。
泣き叫ぶエイヴに私は手を伸ばし、今、絶命した。
chapter8
【あーあ、死んじゃった。"野良猫"ならもっと死に方を選ぶというのに】
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