第7話

 夜が更け、朝が来た。清々しい程の晴れ模様に対して、私の心は雨雲が掛かっていた。

 師匠を殺す事で得られた能力。

 エイヴの能力は誰かの犠牲になりたったものと考えると、私は助けられたのに、果たしてそれが良かったのかと考えてしまっていた。


「何か、考え事かしら?」


 沈んだ顔に、容赦なく明るい笑顔をぶつけてくるエイヴに、眼を逸らして小さく溜息をついた。


「昨日の事、気にしてるの?」

「そうじゃないって言ったら、嘘になるか。エイヴ、あのね――」


 エイヴは首を無言で横に振った。


「貴方がどう思うかは私には関係無いわ。―――実際、殺したのは私だもの」

「でもね、これは私なりのケジメ。貴方にだって思う所や色んな困難を乗り越えてきたと思うから言うけれど」

「余計に首を突っ込んではダメよ。苦しくなるだけだもの」


 エイヴの言う通りだった。確かに、他人の事を考えても余計に苦しくなるだけ。

 私には、私なりの苦悩がある事をエイヴは理解した上で、気にしない方が良いと言ってくれている。


 勿論、エイヴにだって様々な苦悩や困難があっただろう。けれど、今はエイヴは私に協力してくれている。私もエイヴが元の世界に戻れる為に何か考えてあげる方がよっぽどマシだ。

 過去には触れない。そうと思いながら、私達はまた歩みを進めた。


 魔性が更に濃くなっていく。

 真っ白な霧に覆い包まれた森の中では、数メートル先は目視すら不可能


「ふと気になったんだけど……エイヴはどうして、魔性の中でも息が出来るの?」


 彼女には、マナに対して耐性があるとは思えない。前に、高濃度のマナで危険だと言っていたからだ。そんな中、悠々と歩く彼女を今ふと疑問に感じた。


「うーん、なんて説明すれば良いのかしらね」


 歩きながら、首を傾げるエイヴ。そんなに難しい質問をしただろうか。数分して、エイヴは何かを思いついたようで話し始めた。


「そうね、アカリ。例えばの話なんだけど、人って何故食べ物を食べると思う?」

「生きる為じゃないの?唐突に、何?」

「えぇ、そうよね。生きる為、私の身体はそんな理屈なの」

「生きる上でこの、魔性―――正確には、マナだけれども、私の身体はそれがあっても無くても生きられるような身体なの」


 特異体質って言うんだけどね。忌み嫌われる存在に近いわ。と事続けてエイヴは説明をする。

 ――ダメだ。やはり、エイヴの話は分かりづらい。私が馬鹿なだけなんだろうが。こうした他愛のない話をしながら、進めていく中、森の中心であろう場所までたどり着いた。


「……ま、あるわきゃないか」


 高濃度の魔性により、私ですら気分が悪くなるほどだが、辺りを見渡しても人が立ち入った痕跡はおろか、動物や人の気配すら感じない。

 分かっていた事ではあったのだが、やはり、彼を見つけるのは不可能に近いと思うと気が滅入ってしまう。


「アカリ、こっち」


 そんな中、エイヴが何かを見つけ、私は近くに駆け寄る。


「ここ、可笑しいと思わない?」


 地面とコンコンと叩くと下に空洞があるのか。鈍い金属音らしき音が聞こえてくる。何か、ある……?


「この周辺だけ、何故か歩くと変な感じで、触ってみると明らかに土の感触じゃない何かがあったから見つけられたんだけど――」


「エイヴ、少し下がって」


 エイヴが下がった事を確認し、私は、鎌を構え大きく振りかぶって地面と突き刺す。強めの金属音と共に、何かが刺さった。

 そのまま、引っ張り上げようとするが何か重りがついてるのか、引っ張り上げる事が出来ない。


「ごめん。出来れば、もっと離れて欲しい」


 離れたエイヴを確認した同時に、鎌を勢いよく引き抜いた。何かが壊れた音。それと、同時に地面には亀裂が生じる。

 ヤバいと思った私は、そこからすぐさま飛び退き、エイヴの元へと駆け寄った。


 亀裂は勢いを増していき、地面が落とし穴みたいに陥没し始めていく。

 すると、そこにあったのは、暗く深く奥が見えない場所へと誘う鉄梯子と共に、私が割ったであろう地面と同じ色を使い、上辺だけ保護色で塗装された分厚い鉄の蓋が姿を現した。


「なにこれ……」


 エイヴには、その場で待機してもらうよう指示をして、穴を注意深く観察する。

 一回り約直径三mぐらいの大きめの穴。何かのシェルターだろうか?

 だが、シェルターにしては明らかに可笑しい。こんな遠い所に、シェルターなどを作っても使い勝手は悪いはず。仮にこの周辺に、民家や村があるならわかるが。

 なのに、建物すらない辺境の地といっても過言ではない場所に、何故こんなものが?


「アカリさーん、もう大丈夫ですか?」


 エイヴは痺れを切らしたのか、声を掛けてきた。私は大丈夫と声を掛けると、こちらへと走り近付いて、 エイヴも不思議そうに覗く。


「穴……?」

「穴にしちゃ、人為的なものが含まれ過ぎてる」

「それに、私が生まれる前にできたものとも考えづらい、鉄の蓋が劣化している様子も見る限り無いからね」


 こんな大層な物を作ると考えると、多くの人出が欲しいはず。

 ――もしくは、作ってから一度も使われてない可能性が高い…?

 いや、そうだとしても、鉄の劣化が殆ど無いのは可笑しい。魔性で立ち込めるこの場所では、浸食が進む筈。

 一切の痕跡が見受けられない新品の状態なんて、余り可笑しすぎる。この鉄が魔性を受け付けない素材で作られてるならともかく、そんなのは私の仲間達にも聞いた事は無い。


「どうする?アカリ」

「――通が居るとは思えない。本当なら無視したいけど、不可解な事を考えると調査してったほうがいいかもしれない」


chapter7

【"古風"な隠し通路は私のお気に入りではない】




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