第4話

 彼女の見た目は、女性にしては少し高めの身長。深く被ったとんがり帽子にはみ出た美しい淡い群青色ぐんしょういろの髪色は美しいの一言。

 絵本に出てきそうな魔女の洋装は、何処となく圧力プレッシャーを感じる。 


「な、何よ。変な所でもあるのかしら?」

「いえ、見た事が無いような恰好だったので、つい――」

「あぁ、それもその筈よね。私、


 私は驚く事もせず、やっぱり と一言だけ言って、その場を後にしようとした。

 異空間の転送技術は過去に渡って研究されている。

 無論、彼女みたいな異世界の住人が居たとして可笑しくは無い。どうして、今になってこの世界に居るのかは謎だが。


「ちょ、ちょっと!もうちょっと驚くとか無いの?――じゃなかった、ねぇ、この世界について教えてくれない?」

「貴方のケガ治したんだから、そのお礼として、ねっ」


 不器用に目をぱちくりさせる彼女は、何処か滑稽でムカつく。一瞬、一発殴ろうかと思ったが、手の治療を施してくれた恩人に向かって大層な事は出来ない。

 仕方無く、これまでの出来事やこの世界で起きている話をする。


「成程、ねぇ。けど、貴方が魔性と呼んでる物質に関しては私も言える事はあるわよ?」

「アレはマナ。大気中に含まれた高濃度の魔力系原子の一つよ」


 彼女が住む世界では5つの五大元素で世界が成り立ちその一つがマナと呼ばれる最も高濃度で毒性の高い原子との事だった。

 他にも、色々と元素に関しても教えてもらったのだが、妙に気怠さを感じて、言葉が頭に入って来ない。


「やっぱり、回復阻害の効果が出てるわね。貴方、よくこの高濃度のマナを吸いながら生きてられるわね?」

「はぇ…?」


 徐々に呂律が回らず、意識と共に体の感覚が少しずつ痺れてきた。

 

 ――いつの間にか、寝ていたようだった。時刻は分からない。真っ暗な夜空なのは見て分かるのだが、先程の彼女―ジートリー……なんだっけ


「ジートリー・エイヴよ。名前も忘れちゃうのかしら?失礼ね」


 思ってた事が顔に表れていたのか、それとも彼女は私の心が読めるのか。

 彼女は呆れ顔でそう言ってきた。

 そして、暖かそうな炎に手をかざしているエイヴは何かを思い出したらしく、こっちに小さな小瓶を手渡した。


「ほら、飲みなさいよ。さっき、私が作ったマナの分解剤よ」


 彼女が言うには、私に身体に残った有毒なマナを分解する為の薬らしい

 手渡しされた小さな小瓶に揺れ動く紫色の液体。飲みたいとは思えなかったが、仕方無く貰った小瓶を開け、匂いを嗅ぐ。

 強い刺激臭が私の鼻を襲って、一瞬昏倒しそうになった。


「もー、変なもんなんて入ってないって、貴方にはいろいろと聞かなきゃいけないんだし」


 死なれたら困るもの。 と、苦笑するジートリー。

 一口飲んでみる。――あ、駄目だ、これ。飲んじゃいけない。人類には早すぎた。

 なのに、覚えのあるような味がするのは何故だろう。

 

 鼻が痛くなる、挙句の果ては涙腺も脆くなったのか、涙さえ出る始末。苦虫を噛み潰したような顔とは正にこの事ではないだろうか。

 横目で笑いまくっているエイヴを見て、実験でもしてるんじゃないかと、少し疑ってしまった。


「大人なんだったらそんな顔しないで我慢しなよ。ほら、お水」


 彼女は腰に付けていた水筒を手渡し、私は先程の苦みを流すように勢いよく飲む。


「あっはっは、そんなに激しく飲まなくてもいいじゃないか。あれでも、苦みは抑えたんだから」


 笑いながらエイヴは言うが、アレで抑えたというのなら原液はどれ程のものなのだろうか。若干の嗚咽が、残るものの、彼女の薬のお陰なのか。

 少しずつではあるが身体に残った痺れが緩くなってきた気がする。


「ありがとう。エイヴ」


 私はお礼を言う。


「良いの、良いの。これぐらい、詩術士なら出来て当然だからね!」


 誇らしげに言うが、彼女が渡した薬のせいだとは言えない。


「さて、と。聞きたい事はまだまだあるんだよ。


 あれ、私、エイヴに名前なんて教えたっけ……?

 と、虚ろな頭で考えるも分からない。ダメだ。意識がまた朦朧とする。

 頭を抑えた途端、頭痛が襲ってくるのを感じる。即効性だとしても、まだ身体は万全ではない。これからの旅の事を考えると、今は少しでも休んでおきたいと思った私は、エイヴに少し休むと言って私はまたひと眠り付く事にした。


chapter 4

【”具現化”した異邦人は、一粒の砂より重い】


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