第3話

 彼を探すと決め、旅立ってから二か月の月日が流れた。

 正直、気の遠くなるような話だ。

 全人類が私の知ってる限りでは、私と彼しかない現状、この膨大な空間の中を彷徨うように彼を捜さないといけないのだから。


 私はほぼ諦めていた。

 あの時、付いて行けなかった自分の行動力の無さに嫌気が刺す。

 

 だから、私は考える事にした。思考を巡らせ、どうやれば彼があのオーロラを止める事が出来るのかを考えていた。

 もし、彼が考えている事が分かれば、彼が居る場所へと向かえるのではないのかと、そう思ったからだ。

 ただ、足取りを掴むために延々とフラフラするよりはきっとマシだろうと思ったのだ。


 ――だが、本当に止める事など出来るのだろうか?

 過去に仲間達もそういう事は既に検証し、不可能である事自体、立証していたのだ。

 歩き疲れた足を止め、大空を見上げる。寒空とした月の光に、星が輝く。

 時刻は真夜中、空にはオーロラが見えている。たった2ヶ月と言う時間が経っただけなのに、着実に破滅の時は近づいてきている。


 私は、見上げるのをやめた。同時に、思考も停止させた。もう、疲れた。

 もう独りは耐えられない。泣きそうになる気持ちを抑えるのも嫌になった。

 

 諦めよう。きっと、私を咎める者など居ないだろう。

 ……諦めてばっかりだな。私


「ギィ……ギィ!」


 突然、機械仕掛けの化け物 魔機まきがタックルを繰り出してきた。

 考え事に現を抜かし、一瞬でも気を抜いた私は敵の殺気にも気づけず、咄嗟に利き手の右手で相手の攻撃を受け止めた。だが、衝撃はそれでは止められない。


 「ギィギィ!」


 強烈な痛みと共に、身体は吹っ飛ぶ。

 空中に舞う私の身体、必死に体制を立て直し、左手で背中に背負っていた私の獲物である鎌を手に取り、左手で勢いよく得物を地面へと突き刺した。


 地面が擦れていく。

 凄まじい火花をまき散らしながらも減速を始め、瓦礫を周りに吹き飛ばしていく最中、辛うじて、体制を立て直して、辺りを見渡す。

 もぅもぅと、湯煙みたいに舞った土煙の中、タックルをしてきたであろう魔機が、薄暗い煙の中で、鋭く光り輝きながら赤い目をこちらに向けてくる。

 

 魔機は、無機質で構成された魔性汚染された機械。

 彼らには、思考も、魂という精神的概念が存在しない。

 故に、反応や熱感知をするような事は一切出来ない。

 

 隠密ステルス状態のアサシンと言えばいいだろうか。

 勿論、微かに可動音はする――のだが、先の状況で私は一瞬だけ思考を止めたのが問題だった。


 痛む右手は使い物にならない。そう感じながら、私は現実へと戻された。

 ここは、荒廃した世界なのだから。


「ギィ、ギィギィ――――――――――――――――!」


 魔機は単体ならそこまでは恐ろしくはない。が、造られた彼らは恐ろしく知恵が回る。自分達が単体では意味を成さない事を学んでいるからだ。

 仲間を呼ぶための私にも聞こえる程の、高周波音波を出し始め、それを聞いた仲間達が、地面から這い出るように十、二十、三十。

 私を取り囲むように増えていった。

 

 赤くぎらぎらと幾何学模様の目が眩く光、久々の得物だ。と言わんばかりに、私を見ている。


「何とかしないと……!」


 独り言をぼそりと呟き、考え、そして、一つ方法を閃いた。

 深く突き刺さった鎌を、更に足で突き刺した。


「ギィ?」


 意思を持たない筈の魔機達も何かを感じたようで、その場で止まる。

 

 私はすかさず、その鎌を飛び台にして、思いっきり空中へと飛び上がった。

 一~二m程、飛び上がった身体、頭を上にしたまま、何とか、空中で態勢を保ちつつも全身を足に力を入れて、鎌を更に奥へと突き刺した。


「――?」


 何をしているのかと言った様子で見る魔機、警戒されたのなら好都合だ。

 私は力強く鎌を抜いてすぐさまその場から真っ直ぐ切り込みながら、逃げていく。

 

 逃げ行くこちらの行動を見て、焦った一部の魔機が私へと飛び掛かろう。

 数体程度なら、何ら問題は無い。しっかりと、相手の急所を見据えながら、持っている得物で薙ぎ払う。

 

 「ギィ……ィ」


 鎌の先端からは、漏れていく重油と動いてたであろう機械の死体。

 動かなくなった彼らの身体を一払いして、吹っ飛ばして抜き取っては、また正面を突き走った。

 それを遮るように、数体の魔機が私の前に立ちはだかる。

 厄介でしかない、と思ったのもつかの間


 ――突如、突き刺した場所から勢いよくその場所から大量の水が噴き出し始めた。

 先程の抉れた地面からも衝撃に耐え切れなかったのか。

 至る所で噴き出し始めた所を見て、私は今の内にと、逃げていく。

 水道管を私は破壊したのだ。抉れた地面からうっすらと見えていた水道管に傷がついてたのを見逃さなかった。


「ギギ!?」


 魔機は機械と魔性が結合した存在、元が機械と言う事もある為、水に触れると内部の機械がショートしてしまう。況してや、今の世界の水なんて汚染されまくった水だ。

 慌てふためく魔機達。水に触れないように逃げ走るぐらい造作もないのだが、肉体は既に悲鳴を上げていた。

 苦痛を堪えながらも、近くの廃ビルへと身を隠す。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はぁ、ぐぅ…っ!!」


 咄嗟の機転により、窮地を脱した私は、右手に当て木をして、腫れている部分から包帯を巻く。

 医療の知識が無い私にとって、これぐらいしかできない。

 

 こんな事なら、お姉ちゃんにちゃんと教えてもらうんだった。

 大量の魔機相手に、腕一本で済むだけマシだとは思う。だが、次出会えば――考えたくも無い。


「ここで、傷が癒えるのを待つしかないか」


 ……くそ。こんな事してる場合じゃないのに。

 思いのしないアクシデントが襲うのは慣れてるのだが、彼に会いたい気持ちがより一層焦らせる。


「通、会いたいよ……」


 瞳から熱く零れる雫に、痛んだ身体を慣れない地面へと転がす。

 

 意識が目を覚ますと、第一声は私の悲鳴だった。何処から話すべきか。いや、喜ぶべきなのか。私の太ももに、寝ている人物が居たのだ。そう、見知らぬ人が。


「あら、起こしちゃった?貴方の太もも、寝やすそうで――」


 咄嗟の事で、怯える猫のように警戒を促す。

 

「そんなに警戒しなくてもいいのに……」 

 

 と、言われたが、この状況で警戒するなって方が無理だ。

 人の太ももを勝手に、膝枕にされた挙句、見た事も無い恰好でやんわりと、起こしちゃった?なんて言われても、理解なんて出来ない!


「貴方ナニしてるの!?というか、あんた誰よ!」


 場合によっては、と言いかけた時、私は気づいた。右手が動くのだ。


「右手、壊死しかけてたわよ。私が見てなかったら、その手もう二度と使い物にならなかったかもね」

「あぁ、それと私の名前は――」


 ジートリー・エイヴ とでも言っておこうかしら。


chapter 3

【魔機は恐ろしい。なんたって理性が無い。そして、"ロール"を守らない】

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