第15話魔法
「ん……」
目を覚ますと、そこは真っ暗で何も見えない暗がりの中だった。どこだここ?
僕は確か、急に
そこらへんの記憶が曖昧だ……。と言うか、ここはどこだ?
真っ暗ってことは、夜なのか?
でも夜にしては暗過ぎる……。月明かりすらない。
そしてこの手足の違和感。なんだ一体?
動かせない。縛られているのか?
僕は無理やりでも引張てみるが、手足はビクともしない。よほど強固なもので縛られているのか?
幸い……と言っていいのか定かではないが、口は動かせる。僕は大きく息を吸い込むと。
「すいませーん! 誰かいませんかー?」
大きな声で、人を呼んだ。でも僕にこんなことをした人を呼んだところで、状況は何も変わらないのでは?
でもこのままってわけにもいかないし……。そんなことを考えていると、ガチャリと扉を開けるような音とともに、明かりのついたランタンを持った男性がやって来た。
「おう、やっと目ぇ覚ましたか」
いかつい……。なんと言うか、悪者という言葉がここまで似合う人もなかなかいないだろう。
髪型はモヒカンヘアーで、頬に切り傷が付いている悪人ヅラだ……。
「あのーあなたは誰ですか? どうしてこんなことするんですか?」
「は? わかりきったこと聞くんじゃねえよ。お前が天使で、俺が悪魔だから。こんな拉致みたいな真似する理由には充分だろ」
あぁ……なるほど。恐れていたことが起きてしまった。カナさんが言っていたことが真実だとすば、ここは天使が悪魔を虐殺する世界らしい。
なら天使を恨んでいる悪魔がいても、なんらおかしくない。むしろ今まで襲われなかったのが不思議なぐらいだ……。
やばいな……。このまま僕の人生は、終わりを迎えるのか……。でもまだ殺されると決まったわけでは……。
「じゃあ早速死ねや!」
うん、ダメでした……。悪人ヅラの悪魔は、左手に持っていたランタンを近くの木箱に置くと、その近くにあった
やばい……死ぬ……。
「待ってくれたまえ」
「あん?」
死を覚悟したその瞬間。聞き覚えのある喋り方と声が扉の方から聞こえてきた。
目の前の悪魔は、頭上に振りかぶっていた斧を一旦下ろすと、声の方に向き直した。
「誰だオメェ? こいつの仲間か?」
「あぁ、そうとも。大事な仲間なんでね。よければ離してあげて欲しいんだけど……」
「はぁ? そこで、『わかった』って返事するやついるのかよ?」
「じゃあ離してくれないのかい?」
「当たりめえだろ! こいつはここで死ぬんだよ。あとついでにお前も。見たところ何にも持ってないな。騎士でもなさそうだし」
「あぁ、確かに何も持ってない。君の目から見たら、私は戦う
私……魔法が使えるんだよね」
「は? じょ、冗談はよせよ。そんな脅しに引っかかるほど、俺は馬鹿じゃねぇぞ……」
さっきっからこの二人はなんの話をしているんだ?
騎士とか魔法とか、全くわからない。そんなファンタジーな世界なのか?
とりあえず今は、この状況をカナさんに打開してもらいたい。あの口振りと自身から察するに、カナさんにはこの状況を打破するだけの力があると見て間違い無いだろう……。
斧を持った悪魔は一歩後ずさり。
「れ、冷静に考えてみれば、ここは悪魔の領土だ! そうだ、天使は悪魔の領土では魔法を使えない。ガキでも知ってる常識だ。変に焦って損したぜ……」
「んー。君はいつから私が天使だと錯覚していた? このフードのせいで、私の顔は見えないと思うんだけどね」
「は! そんなの、コイツの仲間ってだけでお前が天使である証明できてんだよ。それに万が一お前が魔法を使えたとしても、俺には人質がいる。お前は何にもできない」
「へぇ、意外と冷静だね。じゃあ勝負しようよ。君がその子の首をはねるのが先か、私が君の体を燃やし尽くすのが先か」
なんて物騒な勝負をカナさんは仕掛けてんだ!
その燃やし尽くす魔法とやらをこの悪魔に打ったら、僕まで巻き添えになる気しかしないんだけど……。
カナさんは一歩前に進むと、手のひらを悪魔に向けた。
「あまり生き物を
「無関係? 天使であるって時点で無関係もクソもあるか! 天使は全員クズで残虐で人でなしで救いようの無いゴミばかりなんだよ! 天使ってだけで罪なんだよ!」
カナさんの言葉がこの悪魔の
まずい……。冷静さを欠いてしまったら、すぐに僕を殺そうとしてくるかもしれない。
「まあ待ってくれ。君が天使にものすごい
「うるせぇ! もう待てねぇ! まずはお前からだ!」
悪魔は両手に持っていた斧をカナさんに向けて振りかぶる。僕はその瞬間、とっさに目を瞑ってしまった。
パリンと何かが割れる音。ランタンのガラスが割れたのか?
僕はゆっくりと目を開けると、悪魔の持っていた斧が、巨大な氷に食い込んでいた。
なんだこのカナさんの目の前に突如現れた巨大な氷は……。これがカナさんの言っていた、”魔法”ってやつか?
悪魔の男は、
「うそだろ……ほ……本当だったのか……」
と、腰を抜かしたのか斧を離して地面に尻餅をついていた。
「あぁ、本当だったね」
そう言ったカナさんは、巨大な氷の横を抜けて僕の前に立つと。
「立てるかい? 怖い目に合わせてしまって申し訳ない」
僕は紐で縛られていた足をカナさんにほどいてもらうと、立ち上がり背伸びをした。
そしてカナさんの顔をじっと眺めて、本当に何者なんだと思った。
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