第14話何が真実で何が嘘か

 探し物を始めてから結構すぐに……具体的には5分ほどしてから、少女が探していたであろうものは見つかった。


「これかな?」


 村の木陰に、捨てられるように置いてあった。妙に既視感のある動物が寝ているストラップだ。

 多分あの少女の探し物はこれで間違いない。僕は、見当違いな方を探している少女の方へと歩いていく。


「あのー探し物ってこれですよね……」


 僕は持ってきたストラップを少女に差し出す。差し出された少女の方は、


「あ!」


 と、一際大きな声を出して、僕の手からストラップを奪い取った。

 ストラップを奪い取った少女は、それをスカートのポケットに入れると。


「で……私は何を話せばいいの?」


 不審人物を見るかのような目で、そんな問いをしてくる。どうやらまだ信用してもらえてないらしい……。

 

「別に変なことを聞くつもりはありませんよ。だからさそんなに警戒しないでもらいたいんですけど……」


「わかった。私も借りは作りたくないし」


 少女は脱力したかのように、上がっていた肩を下げて。


「あとその……ありがと」


 照れているのか、顔を赤らめながら僕に対してお礼を言ってきた。な……なんだこの子。

 不覚にも胸がざわついてしまった。出会った時から暴言ばかり吐かれていて見落としていたが、彼女……結構綺麗だ。

 大きな目に、筋が通った鼻。ぷっくりとした唇。僕の美的感覚は、彼女を美人と認識している……。

 まあでも、その容姿からは想像できないほどの暴言の数々。異性として見るのは難しいな……。

 僕は胸の高鳴りを抑えるために、一度深呼吸をして。


「ありがとうございます。では早速」


 何を聞こう……。とりあえず、この人の名前を聞くか。会話を円滑に進めるためには、相手の名前を知ることは必要な情報だよな。


「あなたの名前はなんですか?」


「は? 話を聞くんじゃなかったの? やっぱりナンパじゃない! 探し物を手伝ってくれたのだって、私の好感度を稼ぎたかったからでしょ! 私のお礼を返してよ!」


 だめだこの人……。どうしてこんな簡単な質問にすら答えられないんだろう。

 よほど今まで育ってきた環境が悪かったのか?

 そんな心配をしてしまうほど、彼女とは会話が成り立たない。


「あの、やっぱいいです。次の質問しますから少し黙っててください」


「はぁ? なんかその言い方ムカつくわね」


 ギャーギャーと何か言っているが、それを聞き流して次の質問を考える。さて……次は……。

 とりあえず、”人間”について聞いてみるか。僕が今一番違和感を覚えている単語だ。


「それじゃあ次は、人間について教えてください」


「え?」


 今までうるさかった少女は、急に静かになり首を傾げた。


「人間って……え? どういうこと? 概念の話? よくわかんないけど、人間は人間よ。それ以外特に説明することがないんだけど……」


 全くわからない。今彼女は、人間の何を説明したのだろうか? 

 人間は人間って……哲学ですか?


「いやその、人間とはどういうものかっていうのを聞きたくて……」


「どういうもの……。生き物で、手足が生えてて、二足歩行。これでいい?」


「あの……それじゃあ僕たちも人間になってしまうんじゃ……」


「うん。そうだけど。何あなた、自分は猿か何かだと思ってたの? まあ可愛い女の子を見つけてすぐナンパしようとする、その性欲の強さは猿なみかもしれないけど。見た目に関していえば、あなたは人間よ」


 僕が……人間?

 僕は天使なんじゃないのか?

 少女がまた僕の悪口を言っていたが、そんなのが耳にはいらないほど僕は混乱している。

 カナさんは僕のことを天使と言っていた。なのにこの少女は僕のことを人間と言う。

 でもカナさんは人間なんて種族のことは、何も話していなかった。でも僕は、この少女がいう”人間”って言葉にすごく聞き覚えがある。

 考えれば考えるほどわからない。もう少しこの少女に質問を繰り返せば、何か見えてくるかもしれない……。


「あの、確認したいんですけど……。ここは天使が悪魔を虐殺している世界であってますよね」


 何を質問すればいいのかわからなくなった僕は、カナさんが言っていたことを確認する。

 カナさんが言っていたあのことが正しければ、彼女は首を縦に振るはず……。

 だがポニーテールの少女は、少し引いたような顔つきをしている。


「あの、大丈夫? もしかして現実と妄想がわからなくなってるんじゃないの?」


 どうして僕はこんな奇異なものを見るような目で見られているんだ?

 

「あの、これは僕の知り合いが言っていたことで……」


「はぁ? ますます意味がわからないわよ。その人作家なんじゃない?」


「いやでも……」


「もうそろそろ行っていい? あんたの与太話に付き合ってる暇は私にはないのよ。あんな家でも、私は帰らなくちゃいけないから……」


 そう言い残して、スタスタと少女は村の外へ歩いて行ってしまった。どう言うことだ……?

 わけがわからない。もしかして僕はカナさんに騙されていたのか? 

 誰も信じられない。色々と脳を働かせ過ぎたせいか、僕は目の前が真っ暗になりそのまま地面に倒れ伏した。

 

 



 
















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