第12話罵倒少女
村の中に入ると、一人の少女が目に入った。綺麗な黒髪が後ろで
あれはポニーテールというやつだろう……。
背丈はカナさんと同じぐらいか?
遠目からだとよく見えないな……。でも遠目からでもわかることが一つ。彼女には他の人とは違う、身体的特徴がない。
それはツノだ。ここの悪魔と言われている種族の人たちは、全員頭に小さなツノを生やしている。
でも彼女にはそれがない。僕と一緒だ。カナさんがいっていた天使って種族だろうか?
僕とそっくりだ。そんな天使が何故、悪魔の村にいるのか……?
もしかしたら、領土拡大のために悪魔を殺しにきたのか!?
でも見た感じそんな様子はないし……。とりあえず行ってみるか。
僕が少女に近づくと、遠巻きで見ていた悪魔の人たちが。
「ヒィ! 増えたぞ……」
なんて、怯えた声を出している。申し訳ない……。でもここの人たちって、天使に怯えているだけで、襲いかかったりする素振りはないな……。
まだこの世界がどういうものかしっかりとは理解できてないが、同胞が殺されているのなら天使たちに殺意を覚えていてもおかしくない。
ここで襲われても、なんらおかしくない……。
まあここで襲われたら、確実に僕の人生は幕を閉じることになると思うけど……。
まあそんなことよりも、今は目の前にいる少女だ。
「あのー」
僕に声をかけられたポニーテールの少女は、ビクっとなり。
「な、何よあんた……? ナンパ?」
この状況でその台詞か……。少し自意識過剰な子なのかもしれない。僕は冷静に切り返す。
「全然違いますよ。あなた、天使ですよね?」
「は、キモ。頭大丈夫?」
僕なんでこの子に声かけちゃったんだろ……。自意識過剰な上に口まで悪い……。
ここまで酷い第一印象もなかなかないと思うな。
僕は少女の罵声を受け流して、
「あの、どうしてここにいるんですか?」
「は? 知らないわよ。気がついたら変なところにいて、フラフラしてたらここに着いたのよ」
頭大丈夫ですか?
思わずそう言いそうになるが、ぐっとこらえる。僕も気がついたら森の中にいたし、もしかしたら似たような境遇の子かもしれない。
「もしかして……記憶喪失ですか?」
「いや、え? 急になんなの? 私は今までの記憶もしっかりと覚えてるわよ! てかあんた、さっきから私に質問ばっかでやっぱりナンパでしょ!」
なんてムカつく人だ……。そもそも僕は、この人が同じ天使ってだけで声をかけたんだ……。
別に無視してもいいんじゃないか……?
いやでも、なんか困ってる風だし……。
「あの、もう一度確認したいんですけど、あなたは天使じゃないんですか?」
僕はさっきと似たような質問をする。目の前の少女は、あからさまに機嫌が悪くなったような顔になり。
「さっきからなんなの? 天使とかいってるけどアニメの見過ぎじゃないの? 私は”人間”よ! に、ん、げ、ん。わかる?」
「人間?」
「ええ、そうよ。あなたと同じ、人間」
僕と……同じ……。
あれ?
人間って単語に、すごい違和感がある。そもそも人間ってなんだ?
種族のことか?
悪魔と天使以外の?
でも人間なんて種族、カナさんは一言も言ってなかった……。でも……じゃあなぜそんな存在しないであろう種族の名前を、僕は知っているんだ?
わからない……。でもこの少女ともう少し話すことができれば、記憶を戻す手がかりとかが掴めるかもしれない。
でもここでは話せないな。周りの視線もさっきより痛くなった気がする。
「あのすいません。ちょっとお時間ください」
僕は無理やり少女の手首を掴むと、村の隅っこの方へと向かう。掴まれた少女は、
「は? ちょ、ナンパが成功しないとわかったからって強行手段に出たわね! 離しなさい! ぶっ殺すわよ!」
そんな少女の叫びを無視して、僕は暗がりの方へと向かう。
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