第11話危険思想

 どれほどの距離を歩いただろう……。もう村を出てから3時間ぐらいは歩いたと思う。

 流石にお腹が減ってきた。思えば、昨日目が覚めてから何も食べていない……。でも今すぐに食べれそうなものはないし……。カナさんはこういう時、どうやってやり過ごしてきたのだろう……。

 

「あのーカナさん……」


 僕は少し前を歩いているカナさんを呼び止める。


「食事とかどうしますか? ここら辺って手頃に食べれそうなものは見た感じないですよね……」


「ん? あーそうだね」


 カナさんはそんな生返事をするだけで、これと言って何かするわけでもなく真っ直ぐ歩き続けている。

 何か考えがあるのか?

 もしかして昨日の宿屋みたいに、無料で食事が食べれる隠れスポット的な場所を知っていたりするのか?

 僕はカナさんが何か話すまで待っていると、カナさんは急に立ち止まり。


「実は歩きながら考えてたんだけど、記憶を失う要因っていうのは外的損傷によって、脳に強いダメージをってしまったからだと思うんだよね」


 そういってカナさんは、足元に落ちている両手でやっと持てるぐらいの大きな石を拾い上げると。


「つまりさ、それと同じぐらいの強さで君の頭部にダメージを与えてやれば、記憶が戻ると思うんだよね……」


「え……」


 な……何を言っているんだこの人は?

 確かにその理屈はわからないでもないが、失敗した時のリスクが大きすぎる。

 あんなでかい石で頭を殴られたら、最悪死ぬ可能性だってありえる……。

 最終手段とも言える方法を、まさかこんな序盤から提案してくるなんて……。


「ま、待ってください。僕を殺す気ですか!?」


「いやいや、人聞きの悪い事を言わないでくれよ。私はこれでも善意のつもりだよ?」


 目が本気だ……。僕はまだカナさんのことを完璧に信用できてはいない……。

 本気で僕の頭を殴りつけてくるかもしれない……。


「さあ、覚悟を決めるんだ」


 カナさんは頭上に石を振りかぶると、僕の方へと走ってきた。このままじゃられる……。

 そう確信した僕は、よくわからない森の中でよくわからない方角へと全力で走った。

 カナさん……ごめんなさい。あなたと旅をしたこの3時間、とても楽しかったです……。

 今までありがとうございました!

 心の中でそう叫びながら、僕は無我夢中で走り続けた。

 それからどれぐらい経っただろう?

 結構な距離を走り続けた。体は汗だくになり、息も上がっている。

 これからどうしよう……。咄嗟とっさに逃げてしまったけど、カナさんと別れてしまったら僕はどうすればいいんだ?

 冷静になって考えてみると、とてもまずい状況だ。でも逃げた僕も悪いかもしれないけど、あんな大きな石で殴ろうとしてくるカナさんも悪いよな……。

 はぁ……本当にどうしよう。来た道を戻ろうか?

 でもどこから来たっけ?

 あたり一面緑で覆われているこの森の中、僕は自分がどこから来たかわからなくなっていた。

 もしかしたらもう二度とカナさんとは会えないかもしれない……。

 

「あーどうしよう」


 ぺたんと枯葉かれはが落ちている地面に座り込む。とりあえず、一旦深呼吸をしよう。

 僕は疲れ切った体を少しでも早く回復させるため、深呼吸を繰り返す。そして息が整い、自分の心臓の音が静かになると、どこからともなく音が聞こえてきた。

 なんの音だ? 

 人の話し声か?

 こんなところにいてもしょうがないと思った僕は、とりあえず音のする方へと足を進める。

 進んだ先に待っていたものは……。


「村?」


 そう、村があった。さっきの村と同じぐらいの規模の村だ。荒らされた様子はなく、家も畑もある。さっきの村と見た目がほとんど同じだ。

 とりあえず行ってみよう。もしかしたら、カナさんもこの村にくるかもしれないし……。

 そんな希望を抱いて、僕は村の方へと進んでいった。

 
















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