第9話紹介する自己がない者
「ところで……」
早速旅に行くのかと思ったのだが、フードの人はまだ何か言いたいことがある様子だ。
「どうしました?」
「昨日は眠くてスルーしてしまったんだけど、フードの人って私のことかい?」
「えぇ、まだ名前を聞いてませんから」
「そ、そう言えばまだ名乗っていなかったね……。これは失礼。私の名前は
「なるほど……。じゃあカナさんって呼ばせてもらいますね」
以外と普通の名前なんだな。まあ自己紹介もしてもらったし、僕の方もするのが礼儀だろう……。
「じゃあ次は僕の番ですね。僕の名前は……」
あれ?
いや、僕は馬鹿か?
なんで記憶喪失なのに、自己紹介とかしようとしてるんだよ。僕が自分のことを全く知らないのに、一体何を紹介するんだよ!
「あはは、すいません。今更ですけど僕、自分の名前知りませんでした……」
「うん、まあだろうね。私も、記憶喪失の君が何か紹介できるものでもあるのか? と思っていたところだよ」
「で、ですよね……」
恥ずかしい……。記憶を失う前の僕は、きっと頭の出来は良くなかったんだろうな……。
「ど、どうしましょう。名前がなかったら、カナさんが僕のことを呼ぶときに不便ですし……。どうせなら、カナさんが仮の名前をつけてくれませんか?」
僕は思いつきでそう提案するが、カナさんは。
「いや、その提案は賛成しかねるな。もしそのまま
「そ、そうですか……」
めっちゃ色々と考えてくれていた。そんな真面目に言われたら、仮名を決めてくださいと言いづらい。
僕的には”君”呼びよりも、仮名でもちゃんとした名前で呼んでもらいたいんだけど……。
まあ、この人なりの僕に対する気遣いなのだろう。
「わかりました。名前もない僕ですが、これからよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「うん、長い旅になると思うけどよろしく。じゃあいよいよ旅に出かけるとしよう」
「はい」
僕はカナさんに差し出された手を強く握る。
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