第7話スタートライン

「んっっ!」


 ゆっくりと意識が覚醒していき、閉じていたまぶたを開け上半身だけ起こす。

 横のベッドにはフードの人の姿はない。もう行ってしまったのかな……?

 結局彼女の結論としては、僕と旅はできないってことだったのだろうか……?

 本当にもう出て行ってしまったのか?

 僕はまだ朦朧もうろうとしている意識を完全に覚ますために、頬をペチンと強く両手で叩く。

 

「よし、もうバッチリ目が冴えた」


 早速いなくなったフードの人を探しに行こうと立ち上がると、部屋のドアノブがガチャリと捻られ、そこから。


「やあ、もう起きたのかい? まだ寝ててもいいのに」

 

 昨日と何も変わらない格好で、フードの人は気さくに挨拶をしてくる。なんだ……。

 もう旅に出てしまったとか思ったけど、杞憂だったな。


「はい、おはようございます。それで早速本題なんですけど、結局僕は、旅に連れて行ってもらえるのでしょうか……」


 不安になりながらも、昨日の夜から気になっていたことを聞く。今日の朝には結論を出してくれるって言っていたが、もう決まっているのだろうか……。

 フードの人は何も喋らない。長い沈黙。かなりの長考だ。やっぱり断られてしまうかな……。

 長い沈黙の中、僕の不安はどんどんと大きくなっていく……。


「んーとね……」


 長い長い長考の末、やっとフードの人は喋り始めた。


「結構考えたんだよ、君が私の旅に同伴するって話。それで私の応えだけど

……」


 ゴクリと唾を飲み込む緊張の一瞬。次のフードの人の返答次第で、僕のこれからの人生が左右される。

 フードの人は焦らすように溜めて。


「いいよ。一人旅には飽きてきた頃だからね。君の記憶が戻る保証とかはどこにもないけど、それでもいいなら付いてきて」


「ほ、本当ですか!?」


「ちょっと、顔が近いよ」


「あ、すいません」


 思わずグイッと顔を近づけてしまう。でもそんなことをしてしまうほど、嬉しかった。

 もしここで連れて行ってもらえなかったら、多分僕はのたれ死んでいただろう。この人には感謝してもしきれないな……。

 

「じゃあそう言うことだから早速行こうか。特に準備するものとかもないだろう?」


 そう言ってフードの人は、トタトタと先を歩いていってしまう。僕はその後を追いかけるように走る。

 よくわからない森の中で始まった僕の人生が、やっとスタートラインに立つことができた。

 



















 

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