第6話探究心

「いやーさっぱりしたよ。君も入ってくるといい」


 ホカホカと全身から熱気を放ちながら、フードの人は戻ってきた。というかこの人、いつまでフード被ってるんだ?

 もしかしてフードを被っているのには何か理由があるのか?

 そうじゃなきゃ、部屋の中までフードを被ってないよな……。変に気を使わせてしまうのも申し訳ないと思った僕は、フードのことについては何も触れず。


「じゃあサクッと入ってきますね」


 とだけ言って、風呂場に向かう。あまり大きくない宿屋の風呂場だからどんなものかと思っていたが、思っていたよりは悪くなかった。

 お世辞にも綺麗とは言い難いが、それでも最低限使える程度には整っているし、まあまあ大きめの浴槽も一つだけだがある。

 てか、僕もさっきフードの人がお風呂に行ったタイミングで一緒に行けばよかったな……。

 そんなことを今更思いながら、早々と体を洗う。


「すいません。入りますよ」


 風呂から上がり、部屋まで来た僕はトントンと部屋のドアをノックする。

 だが返事はない。できるだけ早く戻ってきたつもりだったのだが、もしかして僕を置いて旅に出てしまったとか……?

 でも僕が文句を言える立場じゃないし……。

 そもそも何も言わずに突発的に宿屋を出て行ってしまうものか?

 

「入りますよー」


 少し大きめの声でそういうと、ドアノブをひねる。部屋の中に入ると……。


「スースー」


 小さい寝息を立てながら、ベッドで横になって寝ているフードの人の姿があった。

 もうすでに寝ていたのか。確かに今日は結構歩いたし、疲れが溜まっていたのだろう。 

 それにこんな見ず知らずの男のことまで介抱したのだから、それは疲れるよな……。

 僕も寝よう。他に着替えはないので、汗と土まみれの汚れた服装でベッドに横たわる。

 横になると、急激に眠気が襲ってきたのでそのまま寝ようとするが、そこでふとあることに気がついた。

 この人の顔を見てみたい。そう思ってしまった。

 もしかしたらよくないことなのかもしれない。でも気になる。目の前の底知れぬ探究心を、僕は我慢することができない。

 そもそもバレなければ大丈夫じゃないか? 

 少し覗くだけ……。

 僕はあお向けになって寝ている彼女の側に行くと、上から顔をのぞいた。

 その顔を見て、胸がざわつく……。

 整った目鼻立ち。綺麗なシミひとつない肌。眉まである手入れされた黒髪。一言で言うと、美人だ。

 どうしてフードなんて被っているのだろう……勿体無い。

 そんなことを思ってしまうほど、とても整った顔の造形をしている。僕がジーとフードの人の顔を見ていると、


「ん……ん?」


「あ……」


 彼女の閉じていたはずのまぶたがゆっくりと開き、ガッツリと目が合ってしまった。


「あの……その……ごめんなさい!」


 腰を90度に曲げて謝罪をする。


「え? どうして私は今、君に謝られているんだい?」


 目を開けたフードの人は、横になっていた体を起こす。


「いやそれは……その、フードさんのお顔を拝見してしまったから……」


「それは謝罪する理由になっていないよ。別に私の顔を見るのは悪いことではないのだからね……」


 その言葉を聞いて、曲がっていた腰をあげる。


「え、でもずっと顔を隠していたから、見られたくない理由とかがあるんじゃ……」


 僕の発言を聞いたフードの人は、一瞬キョトンとした後に「あぁ」と一人で納得すると。


「別にこれは隠しているわけじゃないよ」


「じゃあなんでフードを……?」


 僕は思ったことをすぐ質問すると、フードの人は言うのに少し躊躇ためらう素ぶりをして。


「このフードがないと、世界が広く見えてしまうからね。あまり多くの情報を入れないために、このフードを被ってるってだけ。多分君には理解できないことだからあまり気にしないでくれ。自分でも滑稽こっけいなことだと思っているから……」


 「それじゃあ」と言い残すと、フードの人はまた横になって眠ってしまった。

 今のはどう言うことだ……?

 よくわからないことを言われるが、そんなことどうでもよくなるぐらい強い眠気が、また襲ってくる。

 頭が回らない。我慢の限界が来た僕は、そのまま倒れるようにドスッとベッドに横たわり、意識を失った。



 

















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