第5話醜い世界

「まあ一旦君が私の旅についてくるかの話は置いといてだ、多分君は、天使とか悪魔とか色々な情報を私に言われてその理解がまだできてないと思うんだよね」

 

「えぇ、まぁ。正直何が何だか……。世界観がよくわからないというか……」


 ここまで僕の頭は何一つとして、この世界のことを理解していない。


「まあそうだよね。だからその辺の説明をしようと思う。まずは今君が言った世界観について」


 フードの人は、二つあるベッドの片方に座ると淡々と話を始めた。


「あまり説明は得意じゃないから手短に話すよ。簡単に言うと、この世界は天使が悪魔を虐殺する世界……って説明で正しいかな?」


 説明する側が疑問に思っているのはどうだろうと思ってしまったが、今の説明で村が荒らされていた理由などはなんとなくわかった。

 フードの人は、僕の方をちらっと一瞬だけ顔を向けた後にまた下を向くと。


「この世界は弱肉強食でね。弱者は強者に全てを奪われてしまう。領土も命も、ありとあらゆるものを奪い尽くされる。じきにこの村も天使達に攻められるだろうから、長居はできないよ」


「そ……そんな……」


 フードの人の説明を聞いて、寒気がした。嫌悪感すら覚える。こんな残酷でみにくい世界で、僕は暮らしていたのか。

 そういえば僕も天使って種族なんでしたっけ……。じゃあ記憶喪失になる前の僕も、人殺し……というか悪魔殺しをしていのか?

 ふつふつと怒りが沸いてくる。


「だ、大丈夫かい? 君、すごい顔になっているよ」


 フードの人にそう声をかけられて、我に返った。


「す、すいません……。そんな酷い人達と僕が同じ種族なんて……。それに、記憶を失う前の僕も殺人を行っていたかと思うと……」


 僕は今思ったことをフードの人に言うと、フードの人はまたも僕のことを見たまま。


「君は優しいね。優しくて正義感がとても強い」


「え?」


 いきなり褒められて、少し困惑する。


「人間の本質というものは、記憶をなくしたぐらいじゃ変わらないよ。だから多分、前の……記憶を失う前の君も人殺しなんてしていなかったと思うよ」


「そ、そうだといいんですけど……」

 

 人間の本質か。じゃあ前の僕は、優しい人間だったのかな……?

 そうだと願いたい。

 薄汚れたズボンを、ぎゅっと強く握る。


「とりあえず説明はここまで。今日はもう疲れたし寝ることにしよう。先にお風呂に入らせてもらって構わないかな?」


「もちろん、どうぞ」


 ベッドから立ち上がり、鉄でできたドアノブをひねって部屋から出て行ってしまったフードの人。

 そういえば、出会ってから結構経つのにまだ名前を聞いていなかったな……。

 静寂に包まれた静かな部屋で、僕は天井のシミを見ながら今後のことを考えていた。



















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