第4話旅の目的

 それで、これからどうしようかな……。とりあえず記憶云々うんぬんの話は置いといて、衣食住をどうにかしないと。

 

「君、これからどうするの?」


「え? あぁ、どうしましょう……」


「『どうしましょう』って言われても……とりあえず、今晩の寝床だけは見つけてあげるけど……」


「本当ですか! ありがとうございます」


 僕はぺこりと深くお辞儀をする。まさか、森で出会った人のぬいぐるみを探す手伝いをしただけでここまでお世話になれるなんて、棚からぼた餅だ。

 

「じゃあ早速他の村に行くから、着いてきて」


 トタトタと先を歩いて行ったフードの人の後を着いていく。他の村というと、ここみたいに荒らされた後ではなく、ちゃんと村人とかが住んでいる村のことだろうか?

 ボーと考え事をしながら、僕はフードの人の三歩後ろを付いて歩く。それから数分。


「ほら、付いたよ。今日はあそこの村にある宿に泊まらせてもらおうか」


 さっきの村を出てからそれほど時間は経っていないが、もう次の村に着いた。村と村の感覚はそこまで遠くはないのか?

 さっきの村とは違い村人らしき人もいるし、畑や家なども荒らされていない。

 スタスタと村の中へ入っていくフードの人の後を、僕も走って追いかける。

 村の中に入ると、頭の上にツノが生えた人? っぽい生き物たちが、ちらほらと見える。

 これがさっき言っていた”悪魔”って種族なのか?

 なんというか……妙に視線が痛い。僕が目を向けると、怯えて家の中に行ってしまっているような……。


「あの、すいません。僕ってこの村の方達にどう見られてるんですかね?」


 あまりにも怯えられるので、その理由をこの人なら知っているのではとフードの人にそう質問すると。


「あぁ。多分君が天使だからだね。まあそこらへんの詳しい説明は、宿屋に入ってからで」


「わかりました」


 僕は一つ返事をしてフードの人の後を着いていく。フードの人は、村の隅っこにある宿屋らしき古臭い家に入って行った。

 宿屋に入ると、フードの人と宿主のような人が話をしている。


「すまないが、今夜ここに一泊させてもらえないか?」


「あぁ、もちろんいいですよ。どうせこの村も長くは持たないでしょうし、お代も結構です」


「ありがとう。それじゃあ行こうか」


「あ、はい」


 無料ただで寝床を確保できるなんて、この人はそういう穴場みたいなものを知っているのか?

 それとも、この世界の宿屋は基本的にお金は取らないのか?

 僕は二階に上がる階段を登り、登った先にあるドアの中へと入る。


「へー結構綺麗ですね」


 外装はボロボロの宿屋だったが、中身は綺麗だ。

 部屋の大半を占める大きな二つのベッドに、小さな木の机と椅子。それ以外の装飾品などは特に見つからない。

 普通の宿屋ってこんな感じなのか?


「あぁ、まあそんなことよりもだ。君の今後について話そうじゃないか」


「そう……ですね」


 早速本題だ。この人に「今後も僕のお世話をしてください」なんて図々しいことは頼めないし……。

 でも行くあてもないし……。本当にどうしよう。


「先に行っておくと、私はこの先君の面倒を見ることはできないよ。たびの最中に面倒までは見きれないからね」


 まあそうだよなぁ……。旅の邪魔になるのも申し訳……たび!?


「あのすいません。あなた、旅人なんですか?」


「ん? まあ旅人といえばそうなのかな? 実はずっと探している人が居てね。私の当面の目標は、その人に会うことなんだ。でもなかなか見つからなくてね、半分諦めてるよ」


 なるほど。だからあんな森の中に居たのか。でもやっぱりお世話になるのは難しそうだな。

 そもそもこんな宿まで案内してもらったのに、それ以上望むなんてことはできないよな……。

 でも旅か。だったら旅の手伝いとか……そうだ、手伝い。

 僕も探している人を見つける手伝いをするという大義名分で、一緒に連れて行ってもらえないだろうか。

 もしかしたらその旅の最中に記憶を戻す手がかりが見つかるかもしれないし、人手が増えればこの人の探している人を見つけられる可能性も高くなる。


「あのすいません! 絶対にお邪魔にはならないので、よければ僕もその旅に連れて行ってもらえませんか? 人手が増えれば、件の探しびとが見つかる可能性も増えると思うんですよ」


 僕の提案を聞いたフードの人は。


「え? いやでもなぁ。人手とかそういう問題ではないんだけど……」


 独り言をつぶやいていた。やっぱり断られてしまうかな?

 見ず知らずの男と一緒に旅をしようなんて提案、普通いやだろうし……。

 

「あの、やっぱり忘れてください。いきなり気持ち悪いこと言ってすいません」


「え? いや別に気持ち悪くはないだろう? 君も私もどっちにも益がある、win-winってやつだよ。でももう少しだけ待ってくれ。明日の朝には結論を出すから」


 そんなことを言われた僕は、少し感動していた。なんていい人なんだ。記憶喪失の僕が初めて出会った人がこの人で本当に良かった。

 そう思わずにはいられないほど、優しい人だ。

 





















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