第3話世界観

「本当にありがとう! それじゃあ」


 ぬいぐるみを渡されたフードの人は、ポケットにぬいぐるみを入れるとお礼だけ言って歩いて行ってしまった。

 僕はその後ろ姿をただ見続ける。どうしてこんな森の中にいたんだろう?

 森……?

 そうだ、森だ!

 僕は今、森の出口を探している最中だったんだ。すっかり忘れてた……。

 僕は遠ざかっていくフードの人の方へと走っていくと。


「すいません!」


 大きな声で呼び止める。

 

「ん? なんだい? 私に用でもできたのかな?」


「あの……この森を出る方法って知ってますか?」


「森を出る方法? もしかして君、迷子なのかい?」


 フードを被っていて顔はよく見えないが、フードの人はキョトンとしているっぽい。

 僕はキョトンとしているフードの人に。


「はい。ここが何処なのか、どうしてここにいるのか、全くわからなくて……」


「どうしてここにいるのかわからない? 君は一体、どうやってこの森の中に入ってきたんだい?」


「それもわからなくて……。実は僕、目が覚めたらこのこの森にいて、それ以前の記憶がないんですよ」


「うーん……。いわゆる記憶喪失ってやつなのかな? 私も詳しくはないけど」


「えぇ、多分……」


 少しの沈黙。フードの人は、僕の顔をジーと見たまま次の言葉を話さない。


「うーん。君は多分……天使? だと思うんだよね」


「天使?」

 

 一体何を言っているんだこの人は?

 

「うん天使。君たち種族のことだよ。ツノが無い人たちのことを天使っていうんだけど……それも忘れてしまったのかい?」


 ツノが無い?

 よくわからない。でも僕たちの種族は天使っていうのか。


「はい、全く覚えてません……」


「それは困ったな……。それじゃあ森を抜けたとしても、何処へ行けばいいのかわからないじゃないか」


「あ、確かに」


 今まで森を抜けることだけにとらわれすぎて全然気にしてなかったけど、僕は自分の家を知らない。

 もし森を抜けたとしても、その先に行くあてがない……。


「はぁ、とりあえず付いてきて」


 フードの人は大きなため息を吐くと、まっすぐ前に進み出した。


「君には一応ぬいぐるみを見つけて貰ったっていう感謝もあるしね。森の外までは案内してあげるよ」


「あ、ありがとうございます」


 意外に優しい人だ。これで森は抜けることができそうだ。でも問題なのはその後だ。

 このまま森を出ても行くあてがなかったら、結局飢え死にしそうだ。そもそも僕は、本当にどうして森の中で寝ていたのだろう?

 もしかして森林を伐採することでお金を稼いでいたとか?

 それでその最中に、事故にあって記憶を失ったとか?

 ありえなくもない話だな……。ブツブツと、独り言を漏らす。

 ボーとしながら後ろを付いて行って、どのぐらい時間が経ったかわからないがかなりの距離を歩いたところで。


「……着いたよ」


 フードの人にそう声をかけられて、ハッと意識が戻った。長いこと歩いた先に待っていたものは、ボロボロになった家や畑らしきもの。

 どこもかしこも壊れている。

 

「ここは……?」


「ここは悪魔たちの村だね。もう壊された後だけど」


 壊された……誰に?

 というか、壊すとか悪魔とか天使とか、この世界の世界観が全くわからない。

 何がどうなってるんだ?

 もしかして、悪魔と天使が戦争をしている世界なのか?

 僕は前までそんな物騒な世界で戦っていたのか?

 浮かび上がる疑問は止まらない……。一刻も早く記憶を戻す必要がありそうだな……。

 








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