第2話記憶喪失

 目が覚めると、森林の中に居た。

 ここは……何処だ……?

 僕は……誰なんだ……?

 倒れていた体を起こして、僕は自分の両手を閉じたり開いたりする。何も思い出せない……。

 今までの記憶が、何も思い出せない。これは俗に言う、記憶喪失というやつか……?

 でも、じゃあどうして”記憶喪失”なんて単語を、僕は知っているんだろうか?

 どうやら全ての記憶がなくなったというわけではないっぽい……?

 なんというか……人との記憶だけがちょうどなくなってしまったような気がする……。

 親の顔も、友人の顔も、何も思い出せない。でも、自分の住んでいた場所は……思い出せない!?

 あれ? 

 僕は何処に住んでいたんだっけ?

 やっぱり人だけじゃなく、他の部分の記憶もない……。

 言語とか言葉の意味とか、そこらへんはなんとなく分かるのにそれ以外がわからない。

 僕が誰で、どうしてこんなところで寝ていたのか。そこらへんの謎を見つけることができれば、もしかして記憶が戻るかも……しれない。

 まあ何はともあれ、一旦ここから離れよう……。こんな森の中だと、飢え死にしてしまう可能性もあるから……。

 僕は周りをキョロキョロと見回して、この森から出られそうな場所はないかと探すが、どこもかしこも緑で覆われていて出口のようなものはみつからない……。

 とりあえず歩くか……。僕は右も左も分からない森の中を、ただ真っ直ぐ突き進んだ。

 歩いてからどれぐらい経ったかわからないが、かなりの時間あるいた先には出口が……あったわけではないけど、その代わりに一人のフードを被った人が四つん這いになって何かを探しているっぽい。

 何か困ってるっぽいし、とりあえず声をかけてみるか。

 僕は四つん這いになっている人に近づくと。


「すいません、何かお困りですか?」


 丁寧な口調で質問をする。僕に声をかけられたフードの人は、僕の方を振り向いて、僕の顔をジーと見続けてきた。

 この人……フードを深く被っているせいで顔がよく見えないな。


「あの……僕の顔に何か付いてますか?」


 あまりにも長いこと凝視されていたので、僕はもう一度声を掛ける。


「あぁ、すまない」


 僕の顔をジーと見ていたフードの人は、ハッとして僕から少し遠ざかる。


「実はここら辺に私の大切なものを落としてしまってね。それを探していたんだよ」


 そんなことを言ったフードの人は。


「じゃあそういうことだから、私のことは気にしないでくれ」


 また四つん這いになって、なくしたものを探し始めた。独特の喋りかただな。

 声からして女性だと思うけど……。まあそんなことより……。


「僕も手伝いますよ」


 ぼくも四つん這いになると、地面を探し始める。


「え? いや別にいいよ。君が手伝う義理なんて何処にもないだろう?」


「別に義理とか関係ないですよ。困っている人がいたら手を差し伸べるのが、普通じゃないですか?」


「そ、そうかい……。それじゃあお言葉に甘えようかな。なくしてしまったのは、なんていうか……うーん説明が難しいんだけど」


 フードを被った女性の人は、唸り声をあげている。そんな説明が難しいものをなくしたのか。

 でも今のぼくは記憶がほとんどないし、なくしたものの名前を言われてもわかるかどうか……。

 

「えーとね、なくしてしまったのは変な形をした生き物の小さなぬいぐるみなんだけど……まあ見れば一目でわかると思うから」


 そんな曖昧な説明をして、フードの人はまた探すのを再開してしまった。小さなぬいぐるみ?……。

 なんだぬいぐるみって?

 まあ一目見ればわかるっていうし、とりあえず手を動かすか。

 ぼくはひたすら地面に落ちている葉っぱをどけて、ぬいぐるみを探す。それから数分。

 葉っぱをガサゴソと触っていると、葉っぱとは違う感触が僕の手に当たった。


「これは……」


 色は灰色で、耳がとんがっている……なんだこれ?

 確かに変な動物だ。でも何処かで見たことあるような……。まあいいか。

 僕はフードの人の近くに行くと。


「見つかりましたよ」


 と言って、よくわからない生き物のぬいぐるみをフードの人に渡した。渡されたフードの人は。


「おぉ! ありがとう。君、いいやつだな」


 フードの上からでもわかるほど、喜んでくれた。



















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