第2話 夢(後編)
―人は誰でも夢を抱えて生きている。
その夢に囚われているかもしれないのに―
俺は永田太陽。東高校の3年でサッカー部に所属している。自分で言うのもなんだけど、時々俺ってけっこうイケてたりするんじゃないかなんて思ったりする。こんなこと誰にも言えないけど。あと、俺は人を"好き"になった事がない。友達としての"好き"はあっても恋愛の"好き"は体験したことが無い。
今日もいつも通り一番乗りで教室へ入る。自分の席につき、教科書を机の中へ入れる。すると少し奥で紙がつっかかったような気がした。一旦教科書を取り出し、机の中を確認する。すると、少しくしゃくしゃになったメモのようなものが入っていた。広げてみると、「放課後、屋上で待ってます」とだけ書かれていた。
放課後、差出人は誰か気になりつつも屋上へ向かった。屋上には同じクラスの三橋さんがいた。こちらに気がついたようだ。「な、永田くん、いきなりなんだけどね、私と付き合ってくれないかな」三橋さんは確かに可愛いと感じることも多くあった。でもやっぱり違う。何かが引っかかるんだ。「ごめんね、俺―あ、ちょっと!」"ごめんね"で全てを悟ったのか、三橋さんはどこかへ行ってしまった。やっぱり俺に見合う女子はいないのか―そう思った。
高校生活も残すところあと1ヶ月を切ろうとしていたある日。突然先生に呼び出された。ここ1週間の行動を思い出すが、何も怒られるようなことはしていないはずだ。「永田、君のお母さんが倒れたらしい」俺は耳を疑った。「月見病院だ」その言葉が聞こえたと共に体が動いていた。
病院につくと既にお母さんは亡くなっていた。その顔はどこか寂しそうに見えた。俺はこの世から全てが失われたかのように呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
日が暮れた頃にお父さんが遅れて来た。お父さんがお母さんの手をとって泣いているのが見える。でも、俺は何故か泣くことができなかった。
その日はもうすぐ高校を卒業してしまうなんてことを考えられる程の余裕なんてなかった。ただ目の前に闇が広がるだけだった。
次の日、俺は学校には行かなかった。そして、病院で話を聞いてきたお父さんからお母さんは夢病という奇病によって亡くなったこと、その夢病は月が太陽に向かっていく夢を1か月見続けてしまうと死んでしまうこと、夢病にはわかっていないことがいくつかあることを伝えられた。
葬式は親族だけで行われたがこじんまりしたものとは呼べなかった。お母さんは俺のことをどう思っているのだろう。振り返るといつも怒らせてばかりだった。まだろくに感謝も伝えられてないのに― 涙が頬を伝っていくのがわかった。お母さんを殺した夢病とは何なのだろう。次に思いついたのがそれだった。最初はイタズラの犯人探しのような気持ちだったが、すぐにそれはお母さんへの感謝の代わりへと変わっていった。
ネットや図書館を駆使して夢病について調べてみたが何も手がかりは掴めなかった。完全に手詰まりだと思いながら校門を出る。「あ、あのー」それはすぐ自分に向けられたものだとわかった。「永田太陽さんですよね」―俺は知る由もなかった。この出会いが俺の人生において最初で最後の転機だとは。
月と太陽 @Bacio0304
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