第5話 お昼休みの出来事が、もう学校中に広まっている件
疲れた。
僕は、シンプルにそんな感想を抱く。
今日は体育もなかった。現代文の教師に指名されることもなかった。いつもと変わらない学校生活を送っただけだ。
なのに、なぜだろう? ここまで疲労感が蓄積されるのは。
こんなときは、推しに癒してもらうに限る。僕はそう思い、ソシャゲを起動する。
「北谷くん! 朝比奈さんだよ!」
面白げな口調でクラスの女子が僕を呼ぶ。もう完全に話題にされているようだった。廊下に野次馬がひしめいているのが見える。
もう、行くのが億劫なんだけど。でも、何か大事な用事かもしれないので話を聞く。
教室の入り口まで行くと、朝比奈さんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「お昼は本当にごめんね。私、ちゃんと校則守ればよかったのに」
「大げさだよ。昼から制服なしで過ごしただけだから。気にしないで」
朝比奈さん、少し気にしすぎではないだろうか? これ、そこまで大事になることか?
むしろ、訳のわからない噂に巻き込んでしまった僕が謝るべきでは?
なんてことを考えていると、朝比奈さんが顔をあげた。ポケットに手を入れ、スマホを取り出す。
「あのさ、もし何かあったらいけないからLINE交換しよ?」
「え? いや、別に大丈夫だよ」
「え…? で、でも、ほら! 一応!」
やけに押しが強いなぁ……どうでもいいけど。
朝比奈さんの連絡先を登録し、スリーブ状態にする。朝比奈さんもスマホをポケットに戻し、笑顔を見せる。
「えへへ、これからよろしくね」
え? これ、もしものための連絡先交換だよね? 違うの?
なんだか幸せそうな顔をして自分の教室に戻っていく朝比奈さん。小走りになるほどのことだろうか?
……さて、用事は終わった。次に僕がやるべきは……野次馬の解散だ。
「はい散った散った。もう終わったよ」
手を叩きながらそう言ってやると、野次馬たちはニヤニヤしながら解散する。なぜかその顔が無性に腹立つ。
さらなる疲労感に襲われ、さっさと席に戻る。残った教科書類を鞄に詰め込み、駐輪場へと向かう。
駐輪場で自転車の鍵を解錠していると、ちょうど松下と出会った。今日も彼女である後輩ちゃんと一緒に帰るようだ。
「おっ! 北谷今から帰り?」
「うん。松下も今から?」
「ああ。……大変だな、北谷も」
この場合の大変とは、間違いなく例の噂のことだろう。本当にどうしてこうなったのか。
松下の後ろにいた後輩ちゃんも言ってくる。
「先輩たちのことは、一年生でも話題になってますよ。あの噂は本当か!? って」
どこまで広がるんだよこの話は。僕としては迷惑この上ない。いや、それは朝比奈さんにとってだな。僕みたいなやつと付き合うだの好き勝手言われてるわけだから。
松下と後輩ちゃんを見送り、僕も自転車に乗る。今日もさっさと帰って、イベントを進めないといけない。
僕は、そう思って夕陽に向かうように自転車を漕ぐのだった。
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