第4話 制服を干したら大騒ぎになった件

「何があった? あれ、誰の制服を干してるんだ?」


 五時間目、教室に入ってきた保健の岩田先生が開口一番そう言った。まあ、当然ではある。

 落下防止のために付けられている柵に制服がかかっているのだ。誰でも疑問に思うだろう。


「すいません。あれ、僕のです」

「北谷か。どうした?」

「餅とバニラが攻撃してきました」


 教室で笑いが起きる。僕としては、ここまでウケるとは思ってなかったので驚きだが。

 岩田先生が冗談っぽく言う。


「あれか。西階段の噂か?」


 岩田先生もこの高校の卒業生だ。どうやらあの噂は岩田先生の学生時代からあるらしい。

 でもまあ、実際その通りなので答える。


「はい。西階段でアイスやられました」


 一瞬で笑いが消えた。誰も彼もが放心状態で口を上下させている。

 最初に声を出したのは、案の定達也だった。


「はあぁぁぁっ!? ちょっ!? はあぁぁぁっ!?」


 それを皮切りに、教室中から質問が津波のように押し寄せてくる。噂を完全に侮っていた。まさか、ここまで認知されているとは。


「で、で、誰よ?」


 ちょっと岩田先生! 興味持たないで止めてくださいよ!


「えぇ……と、朝比奈さん」


 またしても空気が固まった。僕にはわかるぞ。

 これは、大爆発の前触れだと。そして、僕の予想通りに、


「「「おおぉぉぉぉっっ!!!」」」


 男女・生徒教師関係なく(何でだよ)歓声が爆発した。女子たちは黄色い声を飛ばしまくり、男子からは恐ろしいまでの怨嗟が飛んでくる。

 たちまち教室はお祭り騒ぎだ。隣も授業中だということを忘れて大声を出す。


「北谷くんすごいっ! どこまで進んだ!?」

「いや、その……」

「北谷殿! ぜひ、あの制服を拙者に十万で売ってほしいでござるよ!」

「嫌だよ!? てか、なにそのしゃべり方!?」

「お前とは友達だと思ってたのに……」

「達也まで!?」

「よーし、今日は授業を変更して結婚と妊娠についてやるぞー。ぶっちゃけ、テスト範囲終わってるしな」

「せんせー!?」


 ヤイヤイ騒いでいると、教室の扉が勢いよく開かれた。


「やっかましい! 岩田先生も何してるんですか! 授業してください!」

「はい、すいませんでした……」


 隣のクラスで授業していた先生に怒られた。教師よ、これでよいのか?

 全員席について、授業が始まる。なんと、チャイムから十分も無駄にしてしまった。

 ……ちなみに、本日の授業内容は結婚についてでした。

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