第3話 学年一の美少女にアイスクリームをかけられた件

 翌日、僕は教室の端でひっそりとお弁当を広げていた。

 今日もお昼に達也を誘おうと思ったのだが、今日は委員会の仕事があるらしく、残念なことに断られてしまった。

 特段喋る相手もいないので、黙々と弁当の中身を減らしていく。最後のデザート、グレープゼリーを食べ終わると、弁当箱を片付ける。

 スマホを取り出してゲームを始める。ちょうどイベント期間中なので、せめて限定キャラだけは手に入れたいのだ。

 イベントステージを周回したあと、水筒を持つ。お茶を飲もうとしたが、中身がないことに気づいた。


「あれ? もう無くなってる? ……買いに行くか」


 鞄から財布を取り出して席を立つ。自販機がある一階の渡り廊下に行こうと思って教室を出た。

 廊下では、隣のクラスの男子たちがプロレス技をかけていた。完全に廊下の一角を占領してしまっている。


「何年生だよ。休み時間に暴れるなっての」


 多分高校生の集団を通りすぎ、階段に向かう。西階段が近いので、僕はそちらを使う。

 そして、階段を下りるために角を曲がったところで事件は起きた。


「ん!? んんーっ!!」

「へ?」


 慌てたような声が聞こえたかと思うと、何か強い衝撃が体を襲った。急な出来事に反応しきれずにしりもちをついてしまう。


「いってて……ん?」


 何かがぶつかったところをさすると、嫌な感触が手についた。こう……ベタつくような、ネバッとするような。

 例えるなら、そう。


「お餅?」

「ご……ごめんなさいっ!」


 気がつくと、僕に向けて女子が頭を下げていた。そして、その顔を僕はよく知っている。


「朝比奈さん?」

「本当にごめんなさいっ! 私、前を見てなくて……」


 そんな朝比奈さんは、右手にピンク色の棒のような物を持っていた。何だろう? どこかで見たような…?

 その正体は、すぐに分かることになる。彼女の左手に、とあるアイスのパッケージが握られていたからだ。


「雪見大福!」

「え? うん。これが好きで、つい我慢できなくて」


 まさか、さっきの感触は…!

 僕は制服を確認して、思わず泣きそうになる。そこには、かつて雪見大福だったものがベットリと付いていたからだ。

 分かるかい? 雪見大福って美味しいけど、服に付いたら嫌なんだよ? 学校の水道で落とすのは苦労するんだよ?

 起きてしまったことは仕方ない。とりあえず制服を脱いで立ち上がる。


「でも、朝比奈さんが無事で良かったよ。じゃあ、気を付けてね」

「えっ!? あっ、うん。ごめんね」


 僕は、自販機から男子トイレに行き先を変更する。落ちるかどうかは不明だが、水洗いを試みるのだ。

 その後、男子トイレに向けて歩き出す僕だったが、なぜか背後からの誰かの視線が途切れることはなかった。

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