第2話 北校舎二階の西階段で、騒ぎが起きている件
食堂に到着した僕は、たくさんの生徒でごった返す中を器用に避けながら歩いていく。
フッ、だてに家で動体視力と身のこなしを磨いているわけじゃないぜ。
……え? どうやってるのかだって? そんなの、アニメの見よう見まねやFPSゲームに決まっているじゃないか。
無駄な才能を発揮しつつ、おばちゃんの元にたどり着く。奇跡的に、ハッシュポテトは一つだけ残っていた。
「おばちゃん! ハッシュポテトください!」
「100円だよ。温め直そうか?」
「いや、このままでいいです」
ハッシュポテト確保! お昼の激戦を勝ち抜いたのだ!
生徒の群れを抜けると、達也が後ろからついてきた。その手には、箱入りのチョコクッキーが握られている。
「おやつも買えたし、帰るか」
「そうだね」
戦利品を手に校舎に戻る。階段を昇って帰ろうとすると、廊下で男子生徒の絶叫が聞こえた。この世の終わりみたいなその声に、何事かと近づいてしまう。
そこには、悲鳴を発している男子生徒と断末魔を発する男子生徒がいた。断末魔を発する男子生徒の近くには、仲間らしき別の男子生徒もいて、指を差して笑っていた。
「え? なに?」
「……ああ。都市伝説か」
「都市伝説?」
達也が詳しそうなので、話を聞いてみることにする。その内容は、あまりにもバカらしいものだった。
「なんでも、北校舎二階の西階段――つまりここだな。そこで、アイスを食べながら歩く女子とぶつかり、そのアイスを制服にかけられた男子はその女子と結ばれるとか」
「バカじゃねぇの?」
そんな訳ないだろ。天文学的確率よりも低いだろ。
それはあれだ。そんなことされても許せるような関係の人だけが話題になってるんだ。それで、そんな二人は付き合ってもおかしくないというだけの話。
それに、だ。そんなうまいことが現実で起きるわけがない。所詮は噂だということだ。
「行こう。早くハッシュポテトを食べたいんだけど」
僕がそう言うと、達也が呆れ顔を見せた。やれやれと首を振って歩き出す。
醜く言い争いをしている男子たちを置いて、僕たちは教室に戻る。弁当を広げていた位置まで戻り、僕はハッシュポテトを齧る。
買ったお菓子を開封しながら、達也が僕に聞いてきた。
「なぁ? お前ってとことん恋愛に興味ないけど、どうしたよ?」
「別に。今はそういうのいいかなって。……それに、僕には彼女がいるからね」
そういって、今ハマっているソシャゲの画面を見せる。
魔法使いタイプの銀髪の女の子。この子が、今の僕のイチオシだ。
「あー、はいはい。そうですか」
達也は興味なさげに呟くと、クッキーを一枚口に放り込む。そんな反応って酷くない?
なんとも釈然としないまま、僕はハッシュポテトを食べきった。
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