学年一の美少女と激突してアイスクリームをかけられたら付き合うことになった件

黒百合咲夜

第1話 学年一の美少女とすれ違ったが、あまり興味がない件

 君の学校には、都市伝説があるだろうか? もしくは、都市伝説があっただろうか?

 僕――北谷悟きたたに さとるの通うJ高校には、とある都市伝説がある。決して怖くない、男子からすれば現実であってほしいと思われている都市伝説が。

 北校舎二階の西階段、そこで女子がアイスクリームを食べながら通っているときに男子とぶつかり、食べていたアイスクリームをかけてしまうと、その男女は恋仲に落ちる……というものだ。

 言わせてもらおう。現実はそんなにアイスクリームほど甘くない。

 J高校の校則で、廊下での食べ歩きは禁止。それを破った女子がアイスクリームを食べ歩き、それで尚且つ北校舎二階西階段で男子とぶつかってアイスクリームをかける? コンピューターも壊れる確率の計算問題じゃないか。

 そう、僕は思っていたんだ。



……………………………



「リア充め。爆発しやがれ」


 昼休み、教室の端の席で呪いの言葉を放つ男子がいた。彼の名は沖山達也おきやま たつや。僕の友だちの一人だ。

 どうしてこいつはこんなにも荒れているのかというと、原因は僕たちの友だちの一人にあった。


「松下も後輩ちゃんと付き合うことになったんだろ? くたばれ」

「本人がいないからってそれは良くないんじゃないかな?」

「いいんだよ。悟だって内心羨ましいとか思ってるんだろ?」

「別に」


 僕だってチャンスがない訳じゃない。いつの日かは薔薇色の暮らしが待っているさ。

 お弁当を食べ終えた僕は、財布を取り出す。今日のおかずは少し少なめだったのでもう少し何か食べたい気分なのだ。デザートがリンゴだったから、塩気のあるものが望ましい。


「食堂行かない? ハッシュポテトまだ残ってるかも」

「あるかな? ……でもまあ、行くか」


 達也が残ったご飯をかきこんで財布を取り出す。そして、二人で教室を出て食堂へと向かう。

 達也と話しながら歩いていると、不意に達也が止まった。その視線は、前方の一点に固定されている。

 その視線を追ってみると、一人の女子生徒がそこにはいた。


「達也? 朝比奈さんを見てどうしたの?」

「……可愛いよな。胸でかいし。おっぱい大きいし」

「達也。そういうこと言ってるから女子に距離を置かれるんだよ」


 達也が見ていたのは、学年一可愛いと噂の朝比奈咲良あさひな さくらさんだった。

 黒いダイヤと例えられるほどの美しく長い黒髪を持ち、切れ長の目と少し尖った鼻のバランスがいい容姿端麗の美少女……らしい。

 僕はどちらかというと、ゲームやアニメに出てくる銀髪の女の子が好きないわゆるオタクだ。朝比奈さんのことも、同年代にしては綺麗だな程度にしか思っていない。

 廊下ですれ違うと、朝比奈さんが僕たちに優しく微笑んだ。隣から「てんしぃ……」って声がきこえた気がしたけど、多分幻聴だ。

 僕は、天使どころか達也の魂を抜き取った善良な悪魔の背中を見送って、達也の頬を軽く叩く。


「いてっ! 何すんだよ」

「意識がどこかにいってたぞ。ハッシュポテト売り切れるから急ごう」


 そう、達也にとっては朝比奈さんの余韻に浸りたいのかもしれないが、僕にとってはハッシュポテトが大事だ! 売り切れだけが恐ろしい。

 そんなわけで、僕は達也を引っ張って再び食堂への道を歩いていくのだ。

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