第293話「精密会議」
翔はその日の夜遅くに一通のメールを飛ばした。某有名人気無料通話アプリのグループに、である。
それはつい先日に翔が開設した出来たてほやほやのグループで、メンバーはカルマ、蛍、修斗、充、そして翔の五人である。
もう明日まで迫った翔の計画の実行日。
何としても成功させたい翔は最終の打ち合わせをするためにメールを送った。
カルマについては本来は手伝ってもらうつもりはなかったのだが、今日のこともあり、また変なことをされては溜まったものではないので、変な行動を抑制するという面でもこのグループに招待した。
翔が送ったメールの内容は以下の通り。
「明日のプランについて最終の打ち合わせがしたい」
桜花には何とか誤魔化して今日はそれぞれの部屋で寝るように取り付けた。本当に好き放題したせいか桜花も翔を気遣って無理に一緒に寝ようとは言ってこなかった。
アメリカと日本では時差があり、既読が着くかは不安だったが、すぐさま「既読4」と表示される。
カルマ「最終の打ち合わせって何だ?」
蛍「カルマくんは知らなくていいの、私のお手伝いだから。……それより、桜花ちゃんはもう寝たの?」
翔「恐らくは。念の為に文面でしようか」
修斗「ついに明日だな」
充「もう一度プランについて確認だな。……もう一人前の大人だな」
修斗「そうだろうとも。何せ私の子供だからな」
一気に皆が思い思いの言葉を送り合う。翔は通知を切っていなかったので警報アラームもかくや、というほどに鳴り響いてしまい、慌てて通知を切った。
じっと耳を澄ませ桜花が起きていないかを物音で確認する。幸いにも起きた様子はなかったのでこのまま続行する。
翔「アルバイトと今までの貯金を叩いても料理と場所を確保するだけで手一杯だった。後は花束ぐらいは買えるけどそれだけだとプレゼントとしては弱いかな?」
蛍「女の子としては花束でも何でも、お祝いしてくれるだけで嬉しいんだけどね〜」
修斗「折角、ドレスコード御用達のところなのだからもっと豪勢に行かねば」
充「修斗、それどこの店だ?」
修斗「確か、星三を獲得したフランスのコース料理が楽しめるとか……」
充「あー、なら大体に検討はついた。なら私が頼んで貸切にしてもらおう」
カルマ「ひゅ〜っ!かっけー!」
蛍「私は桜花ちゃんに疑われないように上手くドレスを着させる、と」
翔「大役だが頼む!蛍しか頼める人がいない」
すると、蛍から「任せんしゃいっ!」という謎の生命がドヤっているスタンプが送られてきた。
ここで、思わぬ追い風に翔はぐっと成功への確率が上がったのを感じた。
修斗「充が貸切で料金まで持ってくれるなら、買えるものもでてくるだろう?」
充「そう……って、ん?今、料金が何だって?」
買えるものが増える。確かにそうだ。場所代として置いていた料金がそのまま浮いたわけであるので、その分はプレゼント代に回せるということだ。
蛍「あ、そうだ。カルマくん、明日は翔くんと一緒に行動して助けてあげなよ!」
カルマ「俺も翔の親友として頑張らせてもらいますかね!」
修斗「これが女性の策略か」
充「この言葉に何度騙されてきたことか」
翔「あはは……」
準備は入念に。仕留める時には一瞬で。
自然界の狩りであっても、人間界のここぞという大事な場面においてもそれは全くの同じである。
翔は明日の朝一からの予定を頭の中で組み立てる。
朝は桜花に起こされて一緒にご飯を食べる。そしてしばらくすると蛍が急に訪問してきて桜花と遊ぶと言い出して、桜花の部屋に篭もる。その間に翔は身なりを整えてドア越しに「出かけてくる」と伝え、その時にテーブルの上に置き手紙を残しておく。
それでカルマと一緒に下見を行い、来るべき時刻を待つ。
と、なれば、後はプレゼントである。送りたいプレゼントは山ほどある。だが、それを何事も考えずに送ってしまえば意味の無い贈り物になってしまう。
どのタイミングでどの渡したいプレゼントを渡すか。
それが一番の難所であり、気を引き締めなければならないところだ。
蛍「桜花ちゃんは何着ても可愛いからどのドレスを着せればいいか迷うなー」
充「そうだろうそうだろう。是非、一番似合うドレスを着させてあげて欲しい」
蛍「言われずとも!翔くんの希望はある?」
翔「希望……。赤色があれば」
ふと、桜花のドレス姿を想像した時に着ていたドレスが赤色だった。
結構攻めた色だが、今日のこともあってか桜花にぴったりな気がする。
カルマ「赤色は興奮色らしいぞ」
修斗「そうか、翔は興奮したいのか」
蛍「翔くんのえっちー!」
充「私の娘で興奮するなど、許されんな」
翔「こういう時だけの団結力高すぎだろ……!」
桜花の知らない間に水面下で計画は始まる。
カルマも蛍も修斗も充も、そして当然に翔も、全員が桜花という存在が生まれてきたことを全力で祝福するために力を合わせる。
今年度最後の勝負が始まった。
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