第128話「まったりお散歩」
この娯楽施設は全てが揃っている。だから、誰しもが色々な目的を持ち、全国各地から集まってくる。
遊園地エリアもその一つ。アトラクションを楽しむのもその光景を眺めるのも、雰囲気を楽しむのも、全てがその人の自由だ。
翔達は今回のデートでは遊園地エリア以外には立ち寄らないつもりだ。水着の準備もしていないので、ウォーターエリアには立ち入りできないし。
ジェットコースターの落下時の悲鳴を聞きながら、翔達はまったり、のんびり、優雅に歩いていた。
蛍が言うことには、主要のアトラクションは抑えたので、あとは自由でいいらしい。
主要のアトラクションはジェットコースターとお化け屋敷だけだったのかは疑問だが、それを訊ねてもし行くことになるかもしれないのでやめておいた。
のんびりとしたアトラクションならまだ良いが、それ以外だと本当に桜花がやられてしまう。
「初心ですなぁ」
「こら、カルマくん。あんまりからかっちゃダメだよ」
振り返ったカルマが翔に向かって煽ってくる。それもそのはず、カルマ達は「あ〜ん」を平気で行ったのだが、感化された翔達もやってみたところ、平気など保てる訳もなく、手は繋いでいるが、顔の火照りは落ち着かず、相手とは反対の方向を向いてしまっていた。
「俺とは平気なくせに」
「カルマと桜花じゃ全然違うんだよ」
「同じ人だよ?!」
「性別違うだろぉ?!」
あ、そうだった、とカルマは自分の性別を再確認した。
「翔くん……」
「ん?」
「蒼羽くんとは平気なのですか」
「え、いや……うん?」
何とも返しづらい問いだった。
文面通りに受け取るのならば、それは平気である、と答えるしかない。
カルマとの間に恋愛感情など全くないし、心の中で「友達のならば平気」という謎のフィルターが掛かっているので、平気なのだ。
一方で、桜花の表情を伺うに、何か勘違いしているようにも読み取れる。まるで、翔とカルマの間に恋愛感情があるのではないか、と疑っているようだった。だから、そこで「うん、平気」と答えてしまうと、それすらも容認したことになってしまうので、それは断じて違う、恋愛感情があるのは桜花だけだと伝えなくてはならない。
「友達のな……」
「翔。その言い訳は友達に戻るかもしれないぞ」
咄嗟に口に出すのを辞める。カルマの助言になるほどな、と思わされた。もしかすると、桜花に「友達のならば平気なんだよ」と言うと「なら、私も友達になります」と返されてしまいそうだ。
それは話の成り行きであり、本当になる訳では無いと思っていても、彼女ではなくなるということになってしまうのも同義なので、少し悲しく感じる。
「カルマだと恥ずかしい気持ちがない。けど、桜花の時は……ある」
「どうしてですか」
「好き……だから」
小さな声で口を萎ませながら言うと、桜花は嬉しそうに翔の二の腕に頭突きをした。
「いいねぇ、甘いねぇ。青春だねぇ」
「ねぇ三段論法やめろ」
「これにアオハルだねぇも追加してやろう」
「四段論法?」
「着目点はそこでは無いと思います……」
カルマが身を捩りながらにやにやしているので、空いているほうの手で脇腹に突きをお見舞いしてやった。
「痛いなぁ、まったく。何かいい事でもあったのかい?」
「いいことも悪いこともあったぞ」
「これ以上砂糖は作れないし、いらないから聞かない」
カルマがひらひらと手を振りいらないことをアピールする。それはフラグか?やってやろうか、と思ったが、よく良く考えればいいことも悪いことももう知ってしまっているので、意味がなかった。
「ところで、蛍さんは?」
「ただいまー!」
「ちょうどいいタイミングで帰ってきたな」
桜花が蛍の安否を訊ねるとその瞬間に何か長いものを持った蛍が遠くの方から駆けてきていた。
「結構並んでた」
「ごめんな、ありがとう」
カルマはそう言って蛍の頭を撫でた。されるがままになっていた蛍だが、次の瞬間思い出したように、片方の手に持っていた長い何かを桜花へと渡した。
「これは……?」
「チュロス」
歴史の一問一答のように蛍が間髪入れることなく答えた。とはいえ、名前を言われてもそこから派生して手に持つ長い何かに結びつくことが出来なかったのか、珍しく難しそうな顔で悩んでいた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
「俺の奢りだけどね?」
「気にしなーい気にしなーい」
しかし、一本とは。
蛍が持つのを合わせれば二本だが、ここにいる人数は明らかにその倍、四人だ。
そこまで考えて、ふとこの先に何を言われるのかが想像ついた。
そして、蛍がその口を開く。
「もう大丈夫でしょ?二人で食べて」
「え」
「え」
「え」
「どうしてカルマくんまで」
「俺も続けた方がいいかなって思ってさ」
「私と食べるのが嫌なのかと思っちゃった」
「まさか、そんなはずないだろう」
二人の世界を作り出すカルマ達は放っておこう。
しかし。
やっぱりか。
翔は完全に仕掛けていたであろうカルマを睨み、大きなため息を吐いた。
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