第127話「ランチタイム」
翔達は事前調査で一番人気だったらしいところの昼食を食べることにした。幸いにも待つことはなく席に通され、それぞれが腰を下ろした。
勿論、翔の隣は桜花であり、カルマの隣は蛍だった。
「初めて来たけど、人気のアトラクションをふたつも抑えられたのは大きいよね」
「午後からはどうするんだ?」
「もっとアトラクションに乗りたい気もするけど、ショッピングとか、歩きながらここの雰囲気を感じる、とかのんびりしたいかな」
蛍がちらりと桜花を見たような気がした。
直ぐに視線を外してしまったので、正確なところはよく分からなかったが、桜花を気遣ってくれているということなのだろうか。
「翔達も何か意見あるか?」
「僕は特に何も」
「私もありません」
翔も桜花も蛍やカルマについて行くつもりなので、意見などなかった。
流石に「これから帰る?」という話になると「もう少し遊んで帰ろう」と意見するだろうが、まだまだここで遊ぶつもりのようなので、一安心だ。
丁度、会話が途切れたところで、待っていた料理が運ばれてきた。
翔は海鮮丼を注文した。マスコットキャラクターの形をしたマグロがセンターに堂々と乗っけられていた。
桜花はパスタを注文したようだ。
しかも、海鮮系のパスタらしく、あさりのようなものが見え隠れしている。
奇しくも同じ海鮮系を選んでいたということに、笑が溢れそうになるが、目前にカルマ達がいるので抑えた。
そういうカルマ達はと言うと、カルマはがっつりとしたステーキで、蛍はハンバーグを注文していたようだ。
二人ともお肉で揃っていた。
「カルマ」
「何だよ」
「顔に出てるぞ」
カルマは抑えることが出来なかったらしく、顔に笑みが漏れていた。
翔が指摘してやると、やべ、と頬を両手ではさみ、ぐりぐりと解していた。
「何が出ていたのですか?」
「肉汁?」
肉汁がでるのはハンバーグの方だろう、とツッコミたくなったが、敢えてスルーすることにした。
「考えていたことが、顔にでてたんだよ」
「考えていたこと?」
「それ以上は聞かないでやってくれ。見て、もう瀕死になってる」
カルマは翔が表現した通りそのままに、瀕死になっていた。
それ以上深く掘られるとカルマの思いが全て蛍に筒抜けになってしまう。恐らく、それだけならばカルマも容認しそうだが、問題は、翔達がいることだろう。
本人に聞かれると、他人に聞かれるのは訳が違う。
「そうですね。聞かないでおきます」
「ありがとうございます聖女様仏様。この御恩は必ずや」
「私は聖女ではありません」
「ちゃんと奉公しなさい」
翔がおどけてそう言うと、桜花はもう、とこれを宥め、フォークに巻きつけたパスタを小さな口でぱくっと食べた。
それにつられるようにして、翔もカルマも蛍も各自が頼んだ料理をいただく。
海鮮丼は卵をかけて一気にかき込むのも美味しいのだが、今回は一つ一つの味を楽しみながら食べることにした。
しばらく舌鼓を打っていたのだが、カルマの様子が少しそわそわしているような気がして気になった。
「どうした?」
「いや、美味しそうに食べるなぁ、と思ったさ」
「まぁ、桜花や蛍が食べている様子は絵になるよな」
流石に翔のことを言っている訳では無いということぐらいは分かっていた。
蛍が翔達の会話を聞いて少し恥ずかしそうにしながらも食べているが、それでさえ、カルマが見惚れるのも頷ける。
可愛い女優さんが商品の宣伝をしていると同じような感じだ。
その商品は面白そうに、楽しそうに、美味しそうに見えるし、女優さんが微笑んでいたり、軽く怒っている演技をしていたり、その女優さんにも興味が湧く。
「俺達じゃどうもな」
「自分で傷をえぐるんじゃない」
そうは言うが、翔達も別段顔が悪いという訳では無い。ただ、男子が食べているのを見てもその男子に興味が湧くか、と問われれば違うだろう。
せめて、大食いか何かなら話は別だろうが。
「欲しいの?」
蛍がずっと見られているのを気にしてか、そんなことをカルマに言った。翔は蛍を見ているカルマを見ていたので、蛍の対象には入っていない。
カルマは少しの沈黙の後、首を縦に動かした。今日のカルマは中に別人でも入っているのではないか、と疑うほど変である。
こんなに素直になるカルマなど、見たことがない。
「口開けて」
「ん」
「あ〜ん」
そして、何の躊躇も無く、蛍がカルマに「あ〜ん」をした。餌付けか何かだ、と言われた方がまだ納得できるような途轍もない自然な流れと動作に翔は目を丸くさせるしか無かった。
目前でその光景をバッチリ見たはずなのに「あれ?したよね?……した……?」と疑心暗鬼陥りそうな程だ。
翔が絶句していると桜花がくいっと裾を引っ張ってきた。
「お二人が恐ろしいです」
「同感だ」
小声で言い合うと、桜花がフォークに巻きつけたパスタを翔の方に向けた。
これは食べろ、ということなのだろうか。
翔は迷った末にありがたく、頂くことにした。桜花と二人きりならばあまり考えなくとも良い周りの人が、目前に知り合いがこれでもか、と見せつけてくるので、当てられて非常に恥ずかしい。
「僕からもお返しだ」
「あ〜」
「あ〜ん」
自分で初めて言ってみて、とても恥ずかしくなった。
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