第122話「次に行きましょう」
「繋いでもいいか?」
「うん、いいよ」
カルマが蛍と仲良く手を繋ぐ。待ち合わせの時には呆気なくあしらわれてしまったが、もう二人に見えない壁はなくなり、目に余るほど引っ付いている。
「元通りですね」
「そうだな」
「お疲れ様でした」
ふふ、微笑む桜花に翔は少しオーバーな様子で荷を下ろすため息を吐いた。
これで何の憂いもなく楽しめる。
幸いにも翔とカルマのペアにはなっていないし、これからなることもほぼないだろう。
どちらのカップルも手を繋いでいるのだから。
翔は桜花と共にカルマ達の後を追うようにして歩いていた。
「あまり激しくないアトラクションでも乗っとく?」
「どのアトラクションのことを言ってるのか、さっぱりなんだが?」
「まぁまぁ。付いてきなって」
首だけ捻ったカルマは翔に軽い感じで訊ねてきた。とはいえ、ここに来るのは初めてで、特に下調べもしてこなかった翔は「あまり激しくないアトラクション」と抽象的に言われてもよく分からない。
桜花は蛍達が嬉しそうに引っ付いているのを見て嬉しいのか、ずっと微笑んでいた。
その笑顔を見るだけでも頑張った甲斐がある、というものだろう。
「何の事か分かるか?」
「ジョーズのようなものでしょうか」
「イッツアスモールワールドかもしれないな」
そんな冗談を言い合っていると、カルマが手招きしてくる。どうやら、もうそのアトラクションの入口らしい。
「もう少しテンションを抑えたらどうだ」
「無理」
カルマが先程とは別人だと思えるほど、テンションが上がっていたのでちくりと小言を突いてやるが、秒もかかることなく即答された。
翔も気持ちが分かるので、それ以上は何も言わなかった。
「どんなアトラクションなのですか?」
「冒険アドベンチャーで、探検家と一緒に古代の遺跡を探索するっていうモチーフらしいよ」
「冒険アドベンチャー……」
アドベンチャーも意味的には「冒険」なので、桜花は冒険冒険と思ったらしい。
翔も同じくそう思ったので、噴き出しそうになったが、何とか堪えた。
「激しくはないから安心してね」
「私は激しくても平気ですっ!」
「そう?」
「はいっ!なんならもっと激しくしてください!」
聞く人が聞けば爆弾発言と取られかねない言動に翔は慌てて桜花と繋いでいる腕を動かし、意識を翔へと強引に逸らした。
急なことに桜花は驚いた顔を見せたが、翔が今にも噴き出しそうな程に顔を真っ赤にさせているのを見て、自分の発言が如何に際どいものだったのかに気付いたらしく、翔に負けじと頬を染めた。
「蛍……」
翔は恨めしく蛍を睨むと、蛍は「ごめんね」とカルマに言ったものよりも随分軽く済まされてしまった。
カルマに視線を送ると、アイコンタクトが通じたらしく、カルマが蛍にお説教を始めた。
「まったく……」
「翔くん……」
蛍が「そう?」と返した時にはもう気付いていた様子だったので、確信犯だろう。
翔が言ってもほとんど効果がないので、カルマに任せた。
翔が大きなため息を一つ吐くと桜花が名前を呼んできた。
「どうした?」
「あの……はしたない女の子だと思わないでくださいね?」
「分かってる。大丈夫だから」
今にも泣きそうな桜花の目元を指で拭ってやる。
翔は桜花の言葉に驚いただけであって、幻滅した訳では無い。だから、桜花の不安は全く見当違いのものだったのだが、不安に駆られている桜花の表情にぐっときてしまった。
このままだと桜花には何も伝わらないだろうと思った翔は繋いでいた手を恋人同士がするそれへと変化させた。
待ち合わせの時に桜花がしてきたことをやり返した形だ。
一旦、休憩した時には流石に一度、手を離してしまってから、再び繋いだはいいものの、それはどちらとも恥ずかしく、普通に繋いでいただけだった。
自分からするのと、されるのでは感触が違う。桜花は露骨に目を丸くし、はっと翔を見つめた。
「僕の気持ちは変わらないよ」
そう一言添えてやると、桜花はへにゃり、と表情を緩めた。
「ありがとうございます」
桜花が礼を言ったのと蛍がカルマからゲンコツを貰う瞬間が一緒だった。
その偶然に、顔を見合わせてくすくすと笑いあった。
「いったーい」
「よしよし」
「痛くされた人に撫でられる……何か複雑な気分!!」
あのカップルはとても楽しそうであった。
「楽しそうですね」
「今までの分も全部溢れてるんじゃないか?」
「そうでしょうね」
そうこうしている内に、次が翔達の番となった。二人席のようで、そのままカルマは蛍と、翔は桜花と隣り合わせで座った。
翔は「ヲタクに恋は難しい」の遊園地の時のように入れ違いが起こるかもしれない、と少し懸念していたのだが、杞憂で終わったようで何よりだった。
「どうしました?」
「いや、何でもないよ」
これに関しては翔の考えすぎであり、原点がマンガの話なので、桜花に「ありえないですよ」と言われるのを恐れて、誤魔化した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます