第123話「デートの定番」
「面白かったです」
「細部まで凝ってて、臨場感が半端なかった」
「最後に落ちるとは聞いてなかったけど」
「あはは……」
それぞれが思い思いに感想を言い合う。
先程乗っていたアトラクションは最後に滝から落ちる、という予想を遥かに超えるオチがあった。
シャーロック・ホームズのライヘンバッハの滝の如く、急に暗闇から落下する感じを味わうとは思ってもいなかった。
隣の桜花が必死に翔へとしがみついていたからこそ、翔は正気を保ち、奇声を発しなかったのだが、もしこれが一人、もしくは、カルマとの二人旅だったなら、絶叫していたことだろう。
「まさかフラグだったとはな」
「俺達もフラグとして言ったわけじゃないんだが……」
少し恨めし気に言うと、カルマは申し訳なさそうにぽりぽりと頭をかいた。
元々、桜花の体調を見ながら乗れるものとしてこのアトラクションを選んだはずなのだが、これでは悪化させてしまったのではないだろうか、と不安でならない。
しかし、その不安は意味をなさなかった。
桜花が楽しかった、と嬉しそうに翔へと微笑んできたからだ。
「大丈夫なのか?」
「平気ですよ。ジェットコースターの時は色々と重なってしまっただけですから」
「そうか、ならいいけど」
意固地になって言っているわけではなさそうだったが、それでも少しの懸念は残る。
翔は分からない程度にではあるが、桜花の体調面も気にかけることにした。
「今度はお化け屋敷に行かないか?」
「お化け屋敷?」
「そう。ここのお化け屋敷は日本一怖いらしいよ」
その怖いところに今から行こうと誘っているカルマと蛍はどうしてそんなに満面の笑みでいられるのだろう。
あと、息ぴったりすぎやしませんか?
翔は内心でそう思ったものの、口にも表面にもそれを出すことは無かった。代わりに桜花の方を向いた。
翔はお化け屋敷がどれほどのものなのかをよく分かっていない。怖い、怖くないは人それぞれ違うし、お化けはこの世に存在しない、と思っている。
そんな中でも日本一、と謳っているので、それなりに本腰を入れて驚かそうとしてくるのは想像がつくが、人が驚かしてくる、と分かっていれば早々驚くこともないだろう。
翔の考えは初心者が思い、そして砕かれてきたものだったのだが、それに気づくことは無い。
「怖いのですか」
「大したことないだろ。人が驚かすんだから」
「おっと翔。まさかお化け屋敷初めてだな?」
「うん、初めてだよ」
「ほぅほぅ……。ふぅん」
何故かにやにやと人の悪い笑みを浮かべているカルマに悪寒が走るが、翔が問い質す前に、話は桜花へと振られた。
「桜花ちゃん、どうする?」
「迷子になることもありますか……?」
「余程の方向音痴の人なら有り得るかもしれないけど……。桜花ちゃんにはもうパートナーがいるでしょう?」
「それは……そうですけど」
不安が拭えないらしい。
確かに、わざわざ怖い思いをするために入るのだから、桜花には少し難しいかもしれなかった。
「二人で行ってきてもいいぞ」
「ん〜。私はいいけど、カルマくんはお化け屋敷苦手何だよね」
「えー」
てっきり、嬉しそうに話すので、カルマも得意なのかと思っていたのだが、どうやらそうでは無いらしい。
「実はあんまり得意じゃない。逆に蛍は得意だけどな」
「カルマの悲鳴が聞けるのか」
「おい……」
普通の何気ない日常でも、須藤との事件の時でもカルマの悲鳴は聞いたことがない。
翔は少し聞いてみたいという気持ちが現れてしまい、お化け屋敷に行ってみたいという気持ちが強くなった。
「桜花が行くなら僕も行く。行かないなら待ってるから二人で行ってきてくれ」
「行きます」
翔がカルマ達に向かってそういった途端に桜花が声を上げた。
「蛍さんや蒼羽くんが勧めてくれたのですから楽しいはずですし」
「純情だなぁ」
その真っ直ぐな視線に、翔は思春期を過ぎたおじさんのような暖かく見守ってあげたいという思いに駆られた。
桜花の期待は恐らく、崩れ去ることは容易に想像が着いたので、どうするんだよ、と視線を送ると、やべぇ、と返ってきた。
「それに、蒼羽くんの悲鳴も聞いてみたいですし」
「やっぱり桜花も興味があったか」
「はい」
「何か目的が違ってて急に行きたくなくなってきたんですけど……」
「カルマくん?もうダメ」
がっしりと腕をホールドされたカルマは蛍に引きずられながらお化け屋敷へと連れられていった。
「俺は、二人のイチャイチャを見るためにぃいい!!」
叫ぶカルマを見送りながら、翔は大きなため息を一つ吐いた。
「カルマのやつ……。やっぱり何か碌でもないこと考えていやがったな」
「気にしないようにします」
「賢明な判断だと思う」
恐らく、これからカルマは翔達のイチャイチャを見ることは……ない、かも……しれない。
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