第四夜

――やあ、みなさん


またお会いしましたね



私、この呪いのWeb小説のぬしです


――呪いのWeb小説へようこそ



それでは早速『カクヨム民』の紹介にまいりましょう



本日ご紹介するのは

東京近郊に住む会社員、五十代男性


Web小説民は十代、二十代が大半だというのに

これまた随分と希少種を選んでしまったものです



「東京にある会社に

毎日一時間以上かけて通ってたんです……


結婚もしていましたし、

妻と十代の子供が三人


家族でそれなりに幸せな生活を送っていました……」



「しかしながら子供達が、

私立大学やら私立高校やらに行くようになり


お金が掛かる真っ最中


自身のお小遣いも減らされ、

趣味にお金を使うことも出来ずに

飲み会などにもたまにしか行けない


そんな日々を送っていたんです……」



「そこで見つけた

新しい趣味がWeb小説でした……」



「お金も全く掛からないし

暇潰し的な趣味としては最適


最初こそ自分に合った作品を探して回る

いわゆる読み専でしたが


昔、まだ夢見る若者だった頃、

広告のコピーライターを目指していたこともあり


少しだけ文章を書くことには自信がありました……」



「Web小説を読んでいく内に


――これぐらいなら自分でも書けるのではないか?


そんな風に思いはじめます……


そうして読み専から書き手へと転身をはかりました……」



これ、意外に

結構あるんじゃないかと思うんですよ


Web小説って、

参入の敷居が極端に低く見えるというか


自分と同じような素人の人達が

これぐらいやっているのだから


自分もちょっと頑張れば出来るんじゃないか?


そう思ってはじめる人多いんじゃないですかね



「気合を入れて、渾身の処女作を

サイトに投稿したんですが……


びっくりするぐらいに全く反応がなく

投稿した日はわずか2PVがあっただけ


もちろん、レビューやポイントはおろか

ブックマークすらもなく、

感想やコメントすらもなく


全くの無風状態


えげつないぐらいに何も起こらないので

もしかして投稿されていないのではないか、

そう疑ったぐらいでした……


あまりの反応の無さに心折れて、

結局、初投稿作品は削除してしまいます……」



「それから、どうすれば

自分が書いた作品が読まれるのか


改めてネットで調べたり、

自分なりにいろいろと試し、

経験を積んで行きました……



現在流行中の作品傾向、


目に付きやすい投稿の時間帯、


積極的に他の人の作品に

感想やコメントを書いて回って、

相手からも評価してもらうなどなど


ありとあらゆることを試しました……


それでようやく少しは

作品を見てもらえるようになりましたが


それでも相変わらず底辺中の底辺……」



「もともと夢中になると

とことんハマるタイプでしたから


Web小説への執着は

日に日に増して行くばかり



通勤の行き帰りに、満員電車の中で

必死にスマホで小説を書き


職場で仕事の空き時間にも

こっそり小説の続きを書く


どんな時も頭の中は常に


小説の作品構想やら

シーンの描写やらセリフが、


ぐるぐると駆け巡り過ぎっている、

そんな状態……」



「そして、

PV数が気になって気になって仕方ない私は


いつの間にか、スマホを触る度に

まずは小説サイトに投稿した

自分の作品のPV数をチェックする


そんな癖までついてしまいます



夜中、トイレに目が醒めた時は

枕元に置いてあるスマホでサイトを見て

自分の小説のPV数やポイントが

増えていないかを確認


もちろん朝目覚めた時も同様に

まず一番に枕元のスマホを手にし

Web小説サイトの数字を確認する毎日……」




主も以前そうだったのですが


寝起きすぐ投稿サイトをチェックするのは

かなりメンタル侵食されてる証ですよね


生活や心の中心にまで投稿サイトが

食い込んで来ているということですから



ぬしはここでもやはり

そんな自分がコワくなりましたね


これではまるで依存性ではないかと



「サイトの告知をすれば

効果があるかもしれないと思い

twitterもはじめたんですが


これもどちらかと言えば裏目で


いつものPV数チェックに加えて

フォロワー数チェックの

ルーティンが追加されただけという有様


やれブックマークが外されただの

フォロワーにリムーブされただの


そんなことで真剣に落ち込んでみたり

ストレスを溜めたりしていました……」



数字とかがついつい

気になって仕方がないという人には


まぁ、ありがちな罠なんですかね



「一日の大半を

Web小説のことを考えながら過ごす日々が続き……


どんどんエスカレートして行って


ついには睡眠時間を著しく削ってまで

Web小説を書き続けるように……


当然ながら毎日寝不足で

日中は頭に霞がかかったような状態


本来はメインであるはずの仕事が

片手間になってしまい……」



「そんな生活を続けていたら、


頭が割れるように痛くなって、

そのまま倒れてしまったんです……


どうやら脳梗塞だったようで……


救急車で病院に運ばれましたが、

時すでに遅く……」



それ働き過ぎた中年のおっさんが

倒れる時のパターンでは?



ぬしに限らず

同じような経験をしたことがある方は

結構多いんじゃないですかね


まぁ個人的見解にはなりますが、

こういうのも一種の依存症だと思うのですよ



結局、人間、何かに依存しなくては

生きていけない体質なのではないでしょうかね


神様や宗教に依存するか

パチンコなどのギャンブルに依存するか

酒やクスリに依存するか

それともお金なのか


依存する対象が違うだけで

やってることはみんな同じで

何ら変わりはないのではないかと



まぁ、このおっさんの場合


趣味依存症と言いますか

Web小説依存症とでも言いますか



プロの小説家、

ラノベ作家になるために


収入を得るための

他の仕事をすることを良しとせず


多くのモノを投げ打って、切り捨てて


生活のほぼすべての時間を掛け


全身全霊を注ぎ込んで

小説を書いている人達がいる一方で


学生さんや社会人でありながら

趣味で小説を書いている多くの人達もいて



そういうのがWeb小説の

良いところではあるんでしょうけど


そういう人達は趣味として

どう距離をとって付き合っていけばいいのか



このおっさんのようにのめり込み過ぎて


どちらが本業でどちらが趣味か、

分からないような生活になってしまったり


そういう人はここにも多いんでしょうかね



まぁでも、

ご本人には気の毒ではありますが


若者達の遊び場に参加して

孤軍奮闘するおっさんという

なかなか興味深い事例ではありましたね



それでは、みなさん

今日のところはこの辺で


現世でのご縁があれば、

またお会いしましょう……


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