第五夜
――やあ、みなさん
またお会いしましたね
私、この呪いのWeb小説の
――呪いのWeb小説へようこそ
Web小説投稿サイトに投稿された作品数って、
どれぐらいあるんでしょうかね?
各サイトが公表している数字を見ても
二百万以上の作品があるのではないかと思うのですが
書き手一人が一作品だけ
ということもないでしょうから
実際の書き手の数は
二十万人から十万人の間ぐらいになるんですかね
そんなものかと錯覚しますけど
十万人以上もの人間が
小説書いているというのは
よく訳の分からない広さの例えで
東京ドーム何個分という言い方があるので
ミュージシャンのライブなどに
東京ドームが使われた際
MAXの集客数がおよそ十万人超らしいのですが
想像してみてください
満員の東京ドームで
全員が一斉に小説書いている光景を……
ちょっと戦慄してしまいますね
明日提出しなくてはいけない
夏休みの読書感想文を
前日も集団で書いてる? 課題かな?
そんな風にすら思えて来ます
それだけの数の人々が
書き手としての夢を抱いて
Web小説サイトを利用しているんですね
その人が立っているステージのレイヤーによって
夢は多種多様に異なっているのでしょうが
処女作を投稿したばかりの初心者だったら
PVが欲しい
出来るだけ多くの人に見て欲しい
感想やコメントを送ってもらいたい
ブックマークが欲しい
評価ポイントが欲しい
レビューなんかで誉められたら嬉しい
まずはそういうところからはじまるのでしょう
これも立派な夢ですよね
その上のレイヤーとなると
ランキングに載りたい
ランキングの上位になりたい
数字をどんどん増やしていきたい
総合ポイントを百ポイントに、
千ポイントに、一万ポイントに……
PV数を一万に、十万に、百万に……
そんな感じで延々と続くのでしょう
最上位レイヤーになると
Web小説サイトで開催されている賞を取りたい
書籍化したい
書籍化した作品が続刊を出せるぐらい
とにかく売れて欲しい
アニメ化されて欲しい
アニメになった作品を大ヒットさせたい
――夢は欲望
人間ですから
一つ目標が達成されれば次の目標
夢という名の欲望に際限はありませんよね
別にそれは悪いことではないと思います
そうやって人間は成長していくものでしょうし
ですが夢には
もう一つの側面もあるんです
一方で、際限のない夢を
本当に実現させた書き手というのは
全体のわずか数パーセントしかいません
残りの九十数パーセント
十万人を超える人間達のほとんどは
常に心のどこかに
何かしら満ち足りない
モヤモヤしたものを感じ
無念で虚しさを覚えたりしています
そんなWebサービスが
この世に存在すると思います?
十万人を超える人間が
心のどこかで虚無感を覚え、
満ち足りなさを感じながら
利用し続けるWebサービス
普通Webサービスやアプリというのは
利便性を求めて使ったり
動画や画像などを楽しむ
ゲームで爽快感を得る
そういうためのものですよね
もちろんWeb小説サイトの
管理者さんや運営さんが悪い訳ではありません
それは、使う側の心の問題なのですから
人によって大小はあるでしょうが
Web小説サイトの書き手は
少なからず負の感情を
心のどこかに抱えていることでしょう
十万人を超える人間から生み出される
負の感情ですよ?
一人あたりはちょっとずつだとしても
ものすごい蓄積された負の感情になるでしょうね
だから
ちょうど良い場所ではあるのですが……
あの作品、人気があるみたいだけど……
あんなテンプレ作品よりも
自分の作品の方が面白いのに
どうして誰も見てくれない
PV数が伸びないのか
どうして誰もブックマークしてくれない
ブックマークされてもすぐ剥がされるのか
どうして評価ポイントを入れてくれない
いつまでも評価ポイントが低いままなのか
読んだ人から感想が全く来ない
あっても批判的な内容しか来ないのか
レビューなんてされない
どうしてあの作品はたいして面白くないのに
レビューがあんなにたくさんあるのか
これぐらいのことは
Web小説サイトの書き手であれば
誰しもみな一度は思ったことがある
どす黒い感情なんじゃないですかね
もっと酷い負の感情もありますね……
書き手同士が
ブックマークや評価しあったり
レビューしあったりする
ああいうのは卑怯ではないのか
不正なクラスタではないのか
規約違反にはならないのか
卑怯な手段を使って
ランキング上位になるのが許せない
運営からアカウントを停止されればいいのに
実際のところは
そんな風に思っている人もいるでしょう
自分の作品をパクられた
文章が違うだけで
テーマも構成も設定も
自分の作品と一緒ではないか
あの作者は出版社の担当者に
枕営業をして書籍化してもらっている……
もうこの辺りになると
単なる誹謗中傷なのか真実なのか
第三者には真偽のほどは分かりません
ポジティブに捉えると
『カクヨム』をはじめとする
Web小説投稿サイトは
夢を追い求める人々が集まる
希望に満ちた明るいサイト風なんですけど
ドロドロとした負の感情が吹き溜まっている
そんな場所でもあるんじゃないですかね
生活のかなりの時間を
Web小説を書くことに費やし
時には友人や仲間の誘いを断り
睡眠時間を削ることも珍しくなく
寝ても醒めても小説を書くことだけを考え
目が覚めると布団の中でスマホを使い
真っ先にWeb小説サイトをチェックする
それはもうWeb小説サイトに
縛り付けられていると呼んでも
過言ではない生活、ライフスタイル
それほどまでにWeb小説サイトに
膨大な時間を捧げ貢いでも
必ずしも報われるとは限らない
むしろ報われる可能性があるのは
わずかに数パーセントの人間のみ
残りの九十数パーセントは
死屍累々の屍として
いずれ朽ち果てる運命
報われない日々の積み重ねが
書き手の魂を底なし沼
汚泥へと引きずり込み
更に大きな負の感情へと膨張していく
だがWeb小説サイトに捕らわれし魂は
その呪縛から逃れることは出来ない
どう思いますか?
もうこれって呪いですよね?
――夢は呪い
どんなに追いかけようとも
選ばれた者以外に
それが手に届くことはなく
それでもその呪縛からは決して逃れらない
夢を途中で諦めて挫折した者は
いつまでもそのことを後悔し続け
心に傷を負ったまま
しこりを残したまま
一生を過ごさなくてはならない
こうやって書くと
随分と
みなさんすでにお気づきかとは思いますが
この小説のタイトル
『呪いのWeb小説』
この『呪い』が意味するもの、
それは『夢という名の呪い』
つまりここは、
夢という呪いにかかった
『カクヨム民』を紹介する小説なのです
そして、
夢という呪いにかかって
散っていった一人ということなりますが……
最後に、改めて言いましょう
――みなさん、呪いのWeb小説へようこそ
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