ぬちょ! 企み

 父がいなくなってから数年経ったある日、いちど夢に父が出てきたことがある。当時の私は父親に対して自分たちを捨てて行ったクソ親父として認識していたため、今まで思い出すことがなかった。少し痩せて、シャツ1枚で小説を書いていた父とは違い、泥に汚れた姿ではあったが健康的に笑うその姿にかなりの苛立ちを覚えていたことを記憶している。彼の服装はまるで冒険にでも行くようなマントを羽織、腰には日本刀、背中には戦斧、手には杖を持っていた。右手には宝石の違う指輪を、左手には腕輪をつけていたことを覚えている。彼は私に何かを言うわけではなかったが、一瞬涙ぐんだのち、嫌がる私の頭をワシワシと撫でた。そして、


 ヴィィィィィン


 異様な音が徐々に大きくなる。


「…ちょ、いや、…やめ、」

「…うるさい…きゃーはははは」


 ヴィィィィン


 機械が駆動するような音とぬちゃぬちゃと粘液質の絡み合うような音が徐々に近づいてきた。


 うっすらと目を開けると目の前にうなぎのようなものが迫っていた


「ぎゃあえああえ」

 キャーとか言う可愛らしい女の子の声を出したらよかったのだが人間と言うものは必死になるとそんな悠長はない。腕を思いっきり振り上げてその生き物を払いのける。


「ちっおきたか」

 部屋を見回すと、私はベッドの上にいたようで、脇の椅子にはあぐらをかいて神様が座っていた。その隣にはカシラが立っていて、気まずそうにしていた。


「って、さくらちゃん?!」

 床の上でピクンピクンと小さく痙攣し、ぬるねちゃになった女の子勇者が横たわっていた。

「ん、あ、にげ、」



「おいおいおいおい赤髪の魔女さんよー。たかがお使いに行くだけでドンダケ時間かかってるんだよ。もっと言うとなぁ。なんで魔王の精鋭達と1戦交えて、負けて帰ってくるとはどういうことなんだ。お仕置きが必要だなぁぎゃハハハ」

 カミィはサディスティックに笑う。彼女の足元には桶に入った水があり、その中をうなぎのようなものが泳いでいた。


「さぁ!私はこれからお前に何をするでしょうか?」

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