ぬるねっちょおぬる 第一章完

「がはははははっ!世界を救うだと」


眼帯の男が外れた肩を庇いながら話に入ってきた。無事だった腕で戦斧をこちらに向ける。


「たった今さっき、魔王の幹部の部下の末端のしがない雇われ傭兵に!遊ばれていたお前がか!まったくとんだ間抜けだな」


「なんだと」


「事実じゃないか。お前たちの英雄視をしているシカタロウ=ミセンは、確かに人々に希望を与えたかもしれない。だがなぁ、人間は魔物には勝てない。生物には序列と言うものがあるんだ!勘違いした馬鹿が死ぬだけだ」


男の目は本気だった。本気で怯えていた。彼の強い言葉とは裏腹に、何を思い出したのか恐怖に震える瞳があった。


「お前たちがそれでも行くと言うのならこの俺を倒していけ」


先程とは違う一片の隙もない緊張感が場を支配する。


「私が」


「いや、もう一度私にやらせて」


一歩前に出かけた桜を紅葉は制する。



「スライムくん行くよ」


ふよん


「舐めるなよ。一度でも負けたら死ぬんだ。その覚悟がないやつが!二度目があると思ってるガキが!いきるな!」


もみじに向かって男は突貫する。間違いなく激痛が走っているだろう腕をはためかせて。その男に対して、もみじは正面から相手を見つめる。


「殴る人(カンガルー)…」



「お前のそれは既に見切っている!舐めるな!」




「+跳ねる人(プラスホッパー)!跳ね上がる人(ピューマ)!!」


男の戦斧が到達するよりも早く上空へ飛び出した。目の前に現れたジャンプ台となったスライムの壁を男は切り伏せた。


「どれだけ高く飛び上がろうが関係ない。落ちたところを叩き潰す!」


「五連穿つ人(テッポウウオ)…」


即座に自分の真上に向けて魔法で防御結界を張る。あの女は遠距離の攻撃を持っていた。速さをとてつもないが威力は知れている。

自分が張れる最硬度の結界を張る。油断はしない。落ちて無防備になったところを叩き伏せる。殺すつもりはないが、きっちり痛みは与えるつもりだ。二度と自分のように変な気を起こさないように。


「…お前らみたいなまっすぐな子供を死なせるわけにはいかねえんだよ」


男は誰に聞かれるわけではなく小さく呟いた。息を小さくはき結界に集中する。


「+跳ねる人(プラスホッパー)!堕ちる人(ホークス!!)」



5つの小さなスライムを召喚し、さらに先端には、人間大なスライムを召喚した。


「ぬぐぅぁああ!らぁ!」


想像の遥か上を行く攻撃範囲で落ちてきたスライムを魔力を総動員させてなんとか持ちこたえる。守備範囲を狭くして防御力を上げていたことが幸いした。


「ぬめる人(オクトパス)+多き人(プラスデビルフィッシュ)!」


防御魔法とぶつかり男の周辺に飛び散ったスライムが数多の触手状になり、眼帯の男に襲いかかる。


「こんな、ものかぁ!」


振り絞った魔力で周囲のスライムを弾き飛ばす。ふと目を向けるとスライムをかなり減らして静かに地上に落ちてきた紅葉が目に映る。


「とったぁ!!」


はち切れんばかりの筋肉を隆起させて、一歩走り出すことが…出来なかった。


「なにっ」


「悪りぃな!おっさん!」


紅葉がにやりと笑う。


「気づいたときには、あんたはとっくにぬるねちょだ!」


男に向かって親指を下に差し、叫ぶ!

地面から次々にスライムが生え、足に絡まり着き、地面に引っ張り込む。もがけばもがくほどさらに触手は増え、絡まりつく。


「うぉおおおお!」


「潜む人(アリジゴク)!!」


土煙が収まった後残ったのは地面から生えた頭だけだった。もみじは男の前にしゃがみこむ。


「くそ、動かねぇ!」


「なぁ、おっちゃん。私は確かに死ぬかもしれない。魔王軍と戦って負けるかもしれない。だけどね、自分の気持ちを押し殺して周りの言う通り死んだように生きるよりも、私は今度こそ楽しく生きたいんだよ。自分の信じる道を次は無駄のないように、それに…」


「それに想像力は力だろ?」


「私みたいな小娘が最弱のモンスターを使って魔王を倒すなんてロマンじゃない」


目をキラキラさせて言う紅葉を見てため息をつく。


「勝手にしやがれ」


これより先魔王軍を倒すために大暴れする第二章の物語が続くのである!

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