ぬるぬるにゅぬちょるちょ かみさまと鹿太郎
「貴様あの話の続きはないのか」
「お前、あれはまだか、話だばかもの」
「弥山鹿太郎、こういった話はないか」
「鹿太郎、話聞かせて」
「しーかーたーろーうー、おーはーなーしー」
仕事の合間に鹿太郎の話を聞くことが増えていた。いつか別れないといけないと知りつつも、いっぽ前に進むことができなかった。
「カミィちゃん、俺ずっと気になってたんだが、この下の世界に行くことできるのかい」
「それは…」
私は言い淀んだ。単純に彼をいかせたくなかったのだ。
「危険だからな。やめておいたほうがいい。お前のいた世界とは違うんだ」
「俺のいた世界と違う。もみじ…」
時々彼が見せるその表情はあまり好きではなかった。私だけを見て欲しかった。私だけを心配して欲しかった。
「そ、そうだ。少し待ってろ」
私はその場で回転する。自分のにじみ出る力を押さえ込んで、少女の姿になる。
「どうだ、かわいい…か?」
「これは驚いた。あぁかわいいぞ。がはははは」
「ふふふっ」
心の奥底にチクリとした痛みがあったが、強引に無視した。
「しっかり笑え!カミィちゃん!人生を楽しむんだ。楽しくなるようにするんだ。想像して掴み取るんだ幸せっていうの。想像力が力なんだ」
目の前にあるものだけが全てだと私にとって想像力と言うものは必要なかった。だが、
「幸せか幸せって何なんだ」
「家族揃って飯を食う。うまい飯を食べる。甘い菓子を食べる」
「ふふっ食べてばかりだな」
「いや、他にもいっぱいあるぞ。がはははは!しっかり寝れる。自分の好きなことができる。娘の幸せそうな寝顔を見る。童話を書く…」
彼の目がどこか遠くを見ているような気がしてならなかった。消えてなくなってしまいそうだった。
「鹿太郎お前私に笑えと言ったよな。ぎゃははははは!こうか?」
「ん、あぁ。というかその笑い方何なんだ」
「変か?お前の真似をしただけなんだから」
「おれの真似?がはははは!似てるのかもしれんなぁ。」
「ぎゃはははは!」
「がはははは!」
しばらくの間神の間に笑い声が響いた。
「カミィちゃん。俺がこの世界で死んだらどうなる」
「どうにもならない。死ぬだけだ」
「元の世界に戻ったりはしないのか」
「死後に行く世界はランダムだからな。無数にある異世界の中にまた転生することになる。それこそ神の力を全て使っても確率はほぼない」
「…そうか」
彼は何か決心したようだった。
「カミィちゃん。悪いが下の世界にいかせてもらう。」
「どうしてだ。自殺でもするつもりか!」
「がははは!俺がそんなことするわけないだろ!まぁ正直言うと、万に1つでも可能性があるのならそいつを試してもいいとも思った。だがなぁ、お前が嫌いなこの世界を少し救ってみたいと思ったよ。カミィちゃんがもう少し笑えるようにな」
「止めても無理だろうな」
「あぁ」
「じゃぁこれを持っていけ。餞別だ」
「これは…」
彼に渡されたのは5つの指輪と1つの腕輪だった。
「お前の桃太郎の話を聞いて、作っておいたんだ。指輪のほうは魔物を仲間にしたり、魔力を与えたりする力がある。腕輪は相手とコミニケーションを取るための道具だ。当然私との連絡を取ることができる。たまには連絡してこいよ。いや毎日でもいい」
「がはははは!やっぱりそういうのがいるのか。ありがとうな」
「…なぁ、わたしも、」
「ん?」
「いや、なんでもない。いちど頭を撫でてもらえないか。よくがんばったと」
「…」
「いや、忘れてくれ、気持ち悪いよな…」
鹿太郎は私のほうに来てワシワシと頭を撫でた。ぎゅっと抱きしめてくれた。
「…カミィちゃんはよく頑張ってるぞ。他の誰がなんと言おうとも、この俺が保証してやる。なんたっておれはスーパーウルトラ童話作家だからな!がはははは!」
「…達者でな」
「カミィちゃんもな」
「勇者に…祝福が…あらん…ことを…ひぐっ」
「カミィ…っ泣くな!笑え!」
透けていく中、鹿太郎は私に笑いかけた。
「がはははは!」
「ふふっ…ぎゃはははは…」
「そうだ!笑うんだ!人生を楽しめ!神生か?がはははは!想像力は無限大だ!想像力は力だ!楽しく生きようぜ!がはははは!」
その後、この世界に、1人の英雄が生まれた。その勇者は、ドラゴンを倒したり、魔王を滅ぼしたりする事はなかったが、人々の心に生き続けている。豪快に笑い、人々に生き方を教えた。魔物たちに虐げられていた人間たちが立ち上がり、自治を始めた。
「それが、この森だ」
「じゃあ、お父さんは…」
「…あぁ。最後までお前の心配をしていたぞ。当時の私は嫉妬して、お前のことを呪ったがな。バイト三昧になったのは、半分私のせいだ」
衝撃である。こいつのせいで極貧生活を送っていたのから。
「まぁ許せ半分だけな。お前のそれは生まれ持った体質だ。世界を回りながら、鹿太郎はお前の不幸体質を治す薬や魔法を探していたよ。今お前がしている腕輪にはその魔法がかかっている。あいつの最後の仕事だ。人々を守るため、魔王に挑んだんだ。あの時ほど一緒についていけなかったことを後悔した事は無い。弥山もみじ」
かみさまは私の方を向いてまっすぐ瞳を見つめる。
「悪かった。謝罪する。」
頭を下げた。下げ続けた。
「もぅいいよ。結局死んじゃったし。バイト三昧でいろんな力身につけたし。」
「お前が死んだ時にこの世界によんだのは私だ。お前は鹿太郎のことを少なからず恨んでいた。私はどうしても知っておいて欲しかったんだ。鹿太郎がお前のことを大切に思っていたことを」
「うん…」
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