ぬちょぬめにゅ にゅるぱにきゅる →第十四話 髭の男
「ナーイス!スライムくん、数は減らした。あと1人は、カンガルーで確実に仕留めよう」
もみじはスライムとハイタッチをした。予想以上に戦力を削ることができた。まぁおっさんの犠牲があってだけど。最後の1人には効果がなかったみたいだけど、あくびをしているあの男だったら、すぐに倒せるだろと値踏みした。
「全く情けねぇ。これだからパトロールの兵士は舐められるんだ」
おっさんのセクシーシーンを見たために、ほとんどの兵士が吐き気に苦しんだ中、1人この男だけは違った。
鍛えられた体に、歴戦の傷跡が残る。
短い髪に眼帯姿、にかっと笑うと人懐っこさを感じさせる。
集落に植えてある木を指差して吠える。
「おいお前隠れてるつもりだったら意味がないぜ出てこいよ」
ニヤリと笑って身の丈はある巨大なオノで木を指す。
「はぁ、ばれていたか。でも、」
もみじは反対の井戸の近くから現れた。
「場所違うんだけど」
「…ガハハハハハ!」
どことなしに紅葉の父親を思い出した。
「小娘1人に王国の1兵団がやられるとなったら、王国の威信に関わる。悪いな嬢ちゃんたおさせてもらうぜ」
「スライムくん。このおっちゃんも、のしてやろう。殴る人(カンガルー)」
グローブ代わりのスライムをかち合わせる。
「あんたを倒して、私は楽々異世界ライフだ!」
つま先を深く踏み込み、反動で素早く距離を詰める。ガラ空きになった男の胴体に拳を叩き込む。
「いや、おせーよ」
男は右足を引いて紅葉の突進を避ける。
「え?」
「ぬん」
無防備になった背中を押さえつけ、もみじを地面に叩きつける。
「かはっ」
呼吸がとまる。考えろ。思考をとめる…な!!
「ひっ」
間一髪のところを地面を転がり除ける。先ほどまで頭があったところにオノが突き刺さる。
「おせーし、単調だし、何より動きが素人だ」
地面に突き刺さったオノを引き抜き、もみじにむける。
「だったら!」
体勢を戻し、ジグザグにステップを入れながら近づく。足のスライムのおかげで、大きく、早く動くことができる。そして、身体を回転させて、スライムでできた尻尾で攻撃をくわえる。
「がはははは」
その攻撃を男はしゃがむことで回避した。
「だから、そんな単調な攻撃が効くかよ?」
振り上げた拳が止まり、目の前に現れた蹴りを防ぐ。
だが、威力が桁外れだ。後ろに吹っ飛ぶ。
「ねぇ、知ってる?カンガルーって蹴る力が半端ないんだよ」
「…はは!カンガルーってなんだよ」
防いだ右手が痺れて動かない。本人の蹴る力とスライムの弾む力を掛け合わせているようだ。つくづく面白い小娘だ。召喚士とは何回か戦ったことがあるがこんな戦い方をするようなやつはいない。自然と笑みがこぼれる。面白い。
「おい小娘、お前…」
その続きを言うことができなかった。
突然の突風が髭の男を吹き飛ばす。
「なに?」
風が起こった方向みると、黒い龍が空にいた。角流の頭にはセーラー服を着た黒髪の女の子が立っていた。静かに下を見下ろし、無表情にこちらを見ている。女の私でも見とれてしまう位きれいな顔立ちをしていた。セーラー服を着ているって言う事は私と同じ世界から来た可能性が高い。味方なのかな?
「たすけてくれて、ありがとう」
「…」
少女は静かに微笑む。
「弥山 もみじ…」
手をゆっくり上げて、龍に命じる
「…殺せ」
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