ぬるにゅうぷ にゅるにゅるー→第十話カンガルー

とうちゃんすごーい!!


がはははははは。


父に動物園に何度か連れて行ってもらったことがある。極貧生活だったが、動物園だけは年間パスポートを買い、何度も父は足しげく通っていた。童話のアイデアを得るためと言っていた。動物園に行くといつもこの話を聞かされる。


いいかもみじ。生き物は凄いんだ。生き残るために仲間を守るために進化してきた。何十年何百年何千年何万年と。人間にはできないことがいっぱいある。


ほえー。じゃあ人間は弱いの。


強い弱いじゃない。人間にだって脳みそがある。想像力がある。すごいだろ。だから父ちゃんは人間の得意な想像力を使って童話を作ってるんだよ。


よくすらんぷになると動物園に来るよね。


な、誰だスランプなんて言葉を教えたやつは。


担当さん。


あのやろう!

ごほんっ、いいかもみじ!覚えておけ!




この後の言葉は、霧がかかったように覚えていない。父さんの書いた童話はいつも動物が登場していた。動物たちが父に力を貸してくれてるようだった。




「殴る人(カンガルー)」


足に加えて手と肘、頭と腹にそれぞれスライムくんを装着している。尻尾もしっかりある。


5人の兵士に向かってこぶしを構える。


「なんだその格好、パンチの打ち方でも教えてやろうか」


足についてるスライムくんによって小さく弾む。


ぽよん


ぽよん


ぽよん


ぽよん


「…」


「狙い撃て」


私の弾む動きに合わせて1人の兵士が弓を構える。


ぽよ


ぽよんっ


ぽよんっ!




「あれ?」


次第に大きくなる動きに合わせて弓を動かしていた兵士の目から、もみじの姿が消える。


「…まず一人」


兵士は腹のしたから女の声がしたことに驚く。スライムによってコーティングされた拳で殴られる。


「何っ」


兵士はスライムの弾む力によって体が大きく浮き上がり、そのまま柵にぶつかり動かなくなった。他の兵士達は呆気にとられた。


もみじは足のスライムを大きく踏み込み、弾む方向を相手のほうに向けることによって加速を可能にしたのだった。生き残った兵士の方を向き、拳を打ち鳴らす。


ブニョんブニョんと


「ひ、ひぃぃ」

「かまえろっ!狙い撃て!」


慌てた他の兵士も弓を構えようとするが、弾む動きと加速によって狙いが定まらず、一人、二人と倒されていく。


「な?え?は?」


「パンチの打ち方を教えてあ・げ・る?」


最後の一人の前に立つ。とっさに兵士は剣を抜こうと腰に手をやるが紅葉の方が早かった。召喚によって一瞬モンスターの動きが固定されることを利用して肘にスライムを召喚。跳ね返す力によって速くなった拳をぶつけるのだった。


その拳は顎にあたり、脳震盪起こした兵士は白目をむいてうつ伏せに倒れた。



「殴る人(カンガルー)のとっておきはまだあるのにな」


「…軽率な行動だと思いましたが、もみじさんお見事です」


「へへっ」


少し照れる。


ピィィィ!


耳をつんざく音が響く。兵士のうちの1人が、最後の力を振り絞って笛を吹いたのだった。

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