にゅるにゅうね にゅうにゅるにゅ→第九話集落へ

「もみじ様!本当に申し訳ありませんでした」

「ご慈悲に感謝いたします」

「旅のご無事を祈っております」


スライムから解放されると男たちは次々にもみじに対してこのように告げた。話を聞くと、彼らは行商人で、私を村娘と思ってからかったのだと言う。たちの悪いイタズラだ。許されるものではないが、私もスライムくんの実験をいろいろさせてもらったので、とりあえずはよいと言うことにしよう。


「いや、帰さないよ?」


でも、それはそれ、これはこれ。みすみす実験台、もとい貴重な情報源を帰すわけないじゃん。


「へ?」


彼らの集落が近くにある。


この森は3つの国の境目にあって中立地帯になっている。中立地帯ゆえに無法地帯だ。いろいろな人間や動物が集まる。そして彼らはこの森の中にいくつかの集落を築き、各国と取引をして生活を営んでいる。それならいろんな情報が入ってくるかもしれない。



「私をあんたたちの集落に連れていきなさい」


「はっ?」


「返事は?」


わたしの後ろでスライムくんがぬるぬると蠢く。


「はいっ!!!」


となると、移動手段がいるな。


「スライムくん。分裂ね!」


ふるるん


ふるるんふるるん


ふるるんふるるんふるるんふるるん




湖の水を吸収してから、さらに大きくなったスライムくんが分裂して4つに分かれる。


「集落の方向と距離は?」


「あっちに馬で1時間ほどです」


この辺りは腕輪様様だ。私に分かる単位で伝えてくれる。馬で一時間は結構遠いな。


「よっしゃ!スライムカノン!」


私が叫ぶと男たちをスライムが包む


「がぼぼぼぼ」


「あ、息ができるようにね」


次々に男の顔が出てくる。


「な、何を」


彼らの背後で、右手をスライムくんに包ませて、かまえる。ちょうどボクサーのように。



彼らの話からモンスターにはスロットというものがあるらしい。スライムくんは「弾性」と「分裂」の二つの力がある。


分裂したスライム同士がぶつかると、ものすごく吹っ飛ぶ。さらに吹っ飛ぶスライムはスライムくんの意思次第。



「いくよ、スライムくん!あいつらの方を吹っ飛ばしてね」


ふよん!


ボクシング教室のバイトで鍛えたストレートを体重を乗せて丸い玉にぶつける。


「まってまてまてまっ!まあああああぁ…」


新入りははるかかなたに吹っ飛んだ。声がフェーズアウトしていく。


若い男とカシラはぽかんと口を開けていたが、顔を見合わせた後、今度は自分たちが同じ目に合うことを理解した。生唾を飲み込む


「らぁあああ!」


「いやぁあああああ!」


若い男も空へと消えた。


「あ、悪魔だ。赤い髪した悪魔の女だ」


カシラは呟く。


「悪魔?赤い悪魔って通り名なんかかっこいいかも!採用!」


にんまりと笑う。かみさま倒すのにぴったりじゃないか。


「じゃ、じゃあ!」


「うん!ありがとう!カシラさんは景気付けに最高に派手に吹っ飛ばしてあげる!」


キラキラとした瞳でいう。


「な!え、ま、ち!ちきしょおぉ…!」


カシラも吹っ飛ぶ。



「スライムくん。跳ねる人改ラビット


跳ねる人改ラビット

足の裏に小さなスライムくんをくっつけておくことで弾むように移動できる。スライムくん全体を使った時よりも飛距離とスピードは落ちるけど、再召喚しなくてよく、小回りが効く。私はこれで移動しよう。


「スライムくん、あの人たちの馬や荷物を持っていこう。馬が生きるようにできる?」

ふよん

残ったスライムくんでこれらを包む。


「ホーム!」


スライムや荷物などが指輪に消える。腕輪から山本さんの声がする。

「もみじさん。はじめからこうやって運べばよかったんじゃないですか?」


「あ、そっかぁ。ところで山本さんどうして話してくれなかったの?スロットのこと」


「聞かれなかったので、あとは腕輪と話すイタイ子に見られたくないでしょ」


「ふーん。あ、でさでさ、新技をいくつか考えたよ!」


森の中をぽよんぽよんと跳ねて行った。



彼女たちが去った後、しばらくして1人の女が湖を訪れる。

「弥山…紅葉…っ!!」

彼女の手には黒く光る指輪があった。

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